引退後はコストコデート「ふつうの生活の幸せ」
── 魁皇関の引退後、夫婦の日常生活に変化はありましたか?
西脇さん:交際時からふつうのお出かけをしたことがなかったでしょ?デートといえば、治療院に付き添うことがほとんどで、ランチに出かけたことすらない。だから、私の夢はスーパーで夫が押すカートに私が商品を入れていくような、ふつうのことをしてみたかったんですよね。
そんな話を以前からしていたので、引退後はコストコやスーパーに一緒に行ってくれるように。着物も髷(まげ)頭でもなく、普段着での買い物は新鮮でしたね。何でもないようなことが、私たちにとってはすべて初めてのことばかりだったので。さらに、もう腰が痛かろうが足が痛かろうが、アスリートではありませんからプレッシャーもない。「痛いなら自分で病院行ってくださいね」みたいなことも言えるように(笑)。
── やりたいことにとことん付き合ってくれて、西脇さんへのこれまでの感謝がその姿勢から感じられるようですね。
西脇さん:ねぎらいの言葉を直接言うような人ではありませんが、頑張ってくれたお礼にと、時計を買ってくれました。不器用なところがあるけど、言葉にしなくてもわかっているので、嬉しかったです。ただ、今はそれも変わってきていて、ちゃんと言葉に出していくように指導中です。「ありがとうは?」とか、促したり(笑)。
── 夫婦円満の秘けつなどはありますか?
西脇さん:今年で結婚27年目。長年一緒にいるのでもちろんケンカもありますけど、相撲で活躍してきた彼の姿勢を見ているので、尊敬の念は揺るぎません。電子レンジの使い方がわからないとか、何度言ってもやってくれないこととか、細々挙げるとイライラする点はあっても、目をつぶれるというか(笑)。尊敬できる何かひとつがあれば、乗り越えていけるのかなと。そう思えることが夫婦円満の秘けつでしょうか。

── 引退後に魁皇関が浅香山を襲名し、浅香山部屋を設立することになりました。これまではひとりの力士をサポートしていた西脇さんも、今度は部屋で弟子たちのサポートをするおかみさんになりました。
西脇さん:16〜33歳までの12人の弟子と一緒に生活しているんですけど、親方ひとりのお世話のほうが大変でした(笑)。弟子たちのほうが言うこと聞きますし、呼んだら「はい!」って、飛んできてくれますから。本当に何も手がかかりません。自分で掃除や洗濯もして、「おかみさん食べたいものありますか、作りますよ?」なんて言ってくれたり。結婚記念日にサプライズを準備してくれるなど、かわいくてしかたがありません。私は子どもがいないから母の日にカーネーションをもらったりすると、世のお母さんの気持ちを抱かせてもらい、嬉しいですね。
実のお母さんだったら「うるさいな」と思うことでも、おかみさんと弟子の関係だからスムーズなのかと思います。ただ、彼らにもお母さんがいますから、ほどよい距離感を取るようにはしています。相撲のことは親方の担当ですからノータッチですが、メンタル面や日常生活はサポートしています。お母さん代わりとして、彼らの人生に関わらせてもらう中で人生の先輩として、将来のことや結婚するときのことなどを想像しながら、彼らのよき理解者でありたいですし、相撲以外の人間の部分も応援していきたいですね。
私、みんなに強制的に貯金をさせているんですよ。給金からあらかじめ引いて、それを各自の口座に貯金していて、「あなたが頑張ってきたものだよ」って、巣立つときに渡してあげたいと思っているんです。
── なんだか本当にお母さんのような愛にあふれていますね。
西脇さん:自分でもこんなに母性がある自覚はありませんでした。地方巡業にはたまについて行くんですけど、彼らが私の顔を見てホッとする様子を見ると、心の安定になれている気がして、私も嬉しい。これからも彼らにとって、ただそこにおかみさんがいてくれてよかったな、と思ってもらう存在になれたらといます。
取材・文:加藤文惠 写真:西脇充子