下積み時代に心の支えになった漫画の名言は
── 沖縄から上京後は、専門学校に通いながら生活のためにアルバイトをしていたそうですね。
仲村さん:通っていた専門学校のすぐ近くにあった焼肉店から始めたのですが、何よりバイトはまかないがあることが大事で、ほかにもレストランやデパ地下の惣菜店など、基本的に飲食に関わる仕事で働いていました。卒業後に引っ越しをしたので、近くで働けるものを探して、介護の仕事を始めたんです。
まったくの未経験でしたが、「介護ヘルパー2級(現:介護職員初任者研修)の資格がとれる」という募集要項に惹かれ、「手に職をつけたほうがいい」と親が言っていたのを思い出して応募しました。まだ当時はデビューできるかどうかまったく分かりませんでした。
── オーディションを受けながら働いていたそうですが、大変だったことはなんでしたか。
仲村さん:障がいをお持ちの方の在宅介護の仕事をしていたのですが、利用者さんは生まれながらに脳性まひを持つ方もいらっしゃれば、事故などによって下半身まひになった方もいました。後天的に誰かのサポートが必要になった方は、僕に対する態度がカリカリしていたり、言葉がキツかったり。まだやっぱりどこかで受け入れられない部分があるのかなと感じていました。僕も「もし自分が突然、首から下が動かなくなったら…」と思うと気持ちもわかるので、話しかける言葉も含めて、どう接したらいいか悩みました。
── どう対応したのですか。
仲村さん:あまりに理不尽な態度が目立つときは、「ちょっと今のは違うんじゃないですか」とその場で利用者さんに伝えました。気持ちはわかるものの、人としてやっぱり、していいことと悪いことがあると思ったんです。コーディネーターさんにも相談し、介護士と利用者さんと僕と、一緒にみんなで話し合うこともありました。
第三者を入れて話すことで利用者さんも冷静になって、「たしかに言い方がきつかったかもしれない」と言ってくださって。そのあと僕も「言い返すのが強くなってごめんなさい」というようなやりとりができ、その後はいい方向に向かいました。当事者同士だとトラブルに発展することもあると思うので、介護の仕事を通じて、信頼関係の築き方も勉強になりました。
── 誠実に向き合ってきたんですね。デビューは26歳だったそうですが、気持ちが折れそうになるときもあったかと思います。心の支えになってくれていたものはありますか。
仲村さん:上京前に沖縄にいたときに読んだ、漫画『ベルセルク』の主人公の言葉に支えられていました。「生まれてしまったからしかたなくただ生きる…そんな生き方、オレには耐えられない」っていうセリフがあるんですけど、ずっと胸のなかにあって、この言葉に支えられています。「しかたなく生きる」ことだけは絶対したくないと思っています。
大きな目標を叶える裏技はない
── 介護の仕事をしながらオーディションを受け、声優としてデビュー、その後シンガーソングライターとしてもデビューされました。
仲村さん:ミュージシャンを目指していたのですが、友人の舞台を観て興味を持ち、最初に受けたオーディションで、『アイドルマスター SideM』の天道輝役で声優としてデビューさせてもらいました。それだけ聞くと華々しく聞こえるかもしれませんが、これ以外の仕事がない時期が長かったんです。
26歳でデビューというのは、19歳の同期もいるなかでは遅いほうでした。でも、僕はデビュー前にさまざまなアルバイトを通じた社会経験を詰めてよかったと思ってるんです。いろんな方と関わらせてもらう機会があったのは、本当に貴重な体験でした。どんなベテラン声優さんでも、ひとつひとつの役をオーディションで勝ち取っている実力世界で、どう自分を保っていけるかはすごく大切ですし、コミュニケーションを取って円滑に進めていくことの大切さも、下積み時代に学んだことですね。
── なかなか結果がでないときは、どのように乗り越えてきましたか。
仲村さん:うまくいかないときに、「僕はそもそもなんでこれを始めたんだ」って考えるんですけど、やっぱり自分が興味を持って、楽しいと思えたからなんですよね。僕にとっては高校生の頃に抱いた、「ミュージシャンになりたい」という夢でした。でも、大きな目標を叶えるための裏技はないんですよね。いきなり高みを目指すのではなく、自分が今、持っているもののなかから、できることを探していかなくてはなりません。
── 目標がないという方も多いですが、何かアドバイスはありますか。
仲村さん:目標がなくても、「最近うまくいってないな」と思うことがあったら、ぜひ人と会ったときに大きな声で、笑顔で挨拶をしてみることから始めてほしいです。目の前のひとつずつを、ちょっとずつ「こうしてみよう」と変えていくことで、毎日は変わっていくものだと思います。僕自身もまだまだ自分は成長途中だと思っていて、もっともっとたくさんの人に知ってもらいたいという気持ちで、目の前のことに取り組んでいます。
取材・文:内橋明日香 写真:仲村宗悟