周りの人ができているのに、自分だけできない。でも、自分が劣っているわけでなく、ふだんの生活も友人付き合いもそこそこできる。何か自分は決定的に劣る気質があるのか。なんばさんが、その違和感に気づいたのは社会人になってから。「境界知能」という言葉を知って思ったのは、ショックではなく安堵だったそうです。
「なぜ、自分はふつうにできないのか?」
── 境界知能の当事者としてYouTubeで動画を配信するなんばさん。「境界知能」とは、一般的にIQ71〜84の領域にある人を指し、知的障害には該当しないものの、平均的な知的水準には届かない、いわば“知的障害と平均域のあいだ”にいる人たちを表す言葉です。
28歳のときに受けた知能検査でIQ84という結果を知り、それまで抱えてきた「なぜ、自分はふつうにできないのか?」という違和感にようやく説明がついたとか。「人と少し違うかも」と思い始めたのはいつ、どんなきっかけだったのでしょうか。
なんばさん:はっきり自覚し始めたのは、小学校高学年くらいからです。それまでは友達関係でつまずくことはほとんどありませんでした。でも環境が変わって顔見知りのいない学校に入ったことで、友達同士の会話のテンポについていけなかったり、3人以上になると話の流れに入り込めなかったりする感覚が出てきました。
たとえば、遊戯王やポケモンのカードゲームで、周りの子たちは「このカードはこう使うんだよ」とルールを自然に理解して遊んでいるのに、僕だけ全然わからない。プライドもあったんだと思いますが、そこで「わからない」とも言えませんでした。何度も聞いて面倒くさがられたり、ルールが理解できないとバレるのも怖かった。だから、興味がないふりをしてゲームに誘われないようにしていましたね。
── そうした「見えないズレ」は勉強の場面でも表面化していったのでしょうか。
なんばさん:小学校の頃は比較的成績はよかったのですが、中学校に上がって数学で文字式が出てきて、xやyといった抽象的な概念が入ってくると、急に意味がわからなくなりました。そこから理数系についていけなくなり、成績はクラスで後ろから数えたほうが早いくらい。通知表は5段階評価の2が並び、赤点に近い点数を取ることもありました。
先生から「どこがわからないの?」と聞かれても、何がわからないのかが自分でもわからないから、質問ができないんです。美術でも、自分では見た通りに描いているつもりなのに、できあがった絵を見ると違っている。でも、どこをどう直せばいいのかわからない。頭で思い描いたものを、形にしていくことにも難しさがありました。
── いわゆる勉強以外の部分でも、人とは違う生きづらさを感じていたのですね。
なんばさん:高校時代には友だちもいましたし、いじめられていたわけでもありません。会話のテンポに遅れてしまうところも、周りからは「不思議キャラ」として面白がってもらえていた部分がありました。ただ、自分ではムリをして合わせている感覚があり、友達の輪の中にいても孤独を感じることがありました。
──「勉強は苦手な子」、友人関係では「マイペースな不思議キャラ」。本人のなかには違和感があっても、周囲からは個性の範囲に見えてしまうのですね。
なんばさん:そうだと思います。境界知能は人口の14%ほどいると言われています。単純計算すると約7人に1人でクラスに何人かいてもおかしくない。そう考えると、特別な存在というより、身近にいるけれど、周囲に気づかれていない人たちだと思うんです。
ただ、学生時代はなんとかやり過ごしていましたが、20歳頃に始めたコンビニのアルバイトで、これまで曖昧だった「どうしてもできないこと」がはっきり表に出てきました。