「今は時間が経っているので客観的にお話できますが」と、死産のつらい過去を明かしてくれた杉野美紀さん。当時、傷ついた彼女の心の支えになったのは、1体のぬいぐるみでした。葬儀後も家族同然、いつでも一緒だったため1年半後には体がつぶれてぺしゃんこに。その出来事が、今も続く新しい人生の転機になります。
死産の悲しみを分かち合ったぬいぐるみ

── 杉野さんは、ぬいぐるみの補修や汚れ落としを請け負う「ぬいぐるみのお医者さん」を運営していらっしゃいます。サービス誕生のきっかけは、杉野さんが大事にしている1体のぬいぐるみだったそうですね。
杉野さん:15年ほど前、当時つき合っていた夫がくまのプーさんのぬいぐるみをプレゼントしてくれたんです。それまでぬいぐるみにはそんなに興味がありませんでしたが、そのプーさんが私にニコっと微笑みかけてくれたように感じたことがあったんです。なんだか不思議な縁を感じて、それ以来、そのぬいぐるみは特別な存在になっていきました。
それから30代半ばで夫と結婚して、流産と不妊治療、死産を経験しました。そのあいだも、そのぬいぐるみはずっとそばにいて、私の心の支えになりました。
── 杉野さんのつらい時期に寄り添っていたぬいぐるみなんですね。詳しくうかがってもいいでしょうか?
杉野さん:はい。結婚してから自然妊娠したものの、当時の仕事が忙しく無理をしたせいか流産してしまって…。子どもが欲しかったので、夫と相談して不妊治療を始めました。しかし、なかなかうまくいかなくて、やっと授かっても順調に育たず流産になってしまったこともありました。
そうした出来事を乗り越えて40歳の頃に授かった子は安定期を迎えるまで成長してくれました。でも、19週目に突然破水してしまって…。すぐに病院に駆けつけましたが、死産となりました。
── 不妊治療を経てようやく妊娠したのに…つらかったですね。
杉野さん:今は時間も経っているので客観的にお話しできますが、当時は精神的にとても苦しかった。「私のせいで死産になったのではないか」「私の子どもとして生まれてきたくなかったのかな」と自分を責め続けました。
そんな私を心配した夫が「心の支えになったら」と、そのぬいぐるみを病院に連れてきてくれたんです。あまりにつらくて、私はぬいぐるみをギュッとずっと抱きしめました。お葬式の斎場に向かう車の助手席でも、胸に抱いてうなだれていました。
そのとき、ぬいぐるみの顔をふとみたら、目から白い糸がほつれていたんです。私にはその糸が涙のように見えたんですよね。「お前も泣いてくれているんだね」と。
── ぬいぐるみも杉野さんと同じ気持ちだと感じたんですね。
杉野さん:つわりのしんどいときにもそばにいましたし、妊娠中ずっと「子どもが生まれたら、お友達ができるね」と話しかけていたので、この子も一緒に悲しんでくれているんだな、と。そう考えると、より愛おしくなりました。
でも毎日抱きしめていて、家族の一員として旅行や帰省にも連れて行くようになったため、死産から1年半ほど経った頃には体がつぶれてぺしゃんこになってしまったんです。