現役中のほうが壁は感じていた

── 引退後のキャリアのなかで、うまくいかない、壁にぶつかったなと感じた瞬間はありましたか。
巻さん:それがあまりないんです。むしろサッカー選手としてプレーしていたときのほうが、そう感じることが多かったですね。もちろん今も、「できないな」と感じることはたくさんありますが、解決策や選択肢はサッカー選手時代以上に豊富で。できないことに直面すると、「これはなんとか解決したい!」とワクワクする自分がいます。
── そういったマインドになれるのはなぜでしょう。普段から心掛けていることはありますか。
巻さん:頭でっかちになると考えている通りにはいかないことはたくさんあると思うので、自分が興味を持ったことに関しては人に任せず、現場に行ってみずから体験しますし、体験することが難しい場合も、興味の対象に関して詳しい方から話を聞く。課題があればその根源をとことん突き詰める。そういったことを繰り返すことは常に心掛けていますし、そのスタンスの積み重ねが今につながっていると感じます。
── 現役時代にはロシアや中国などでもプレーされていますが、海外での経験は巻さんの価値観にどのような影響を与えていますか。
巻さん:ロシアではペルミを本拠地としていたクラブでプレーしていたんですが、日本人は僕だけでした。英語すらも通じない環境で、困ったことがあっても知らないふりをされたこともあります。そのとき、日本ではどれだけ恵まれた環境でプレーしていたのかを痛感すると同時に、困ったときはこちらから図々しく行かないといけないと思うようになりましたね。
中国ではチームメイトやスタッフがどんなことに対しても「できる」と自信を持って答えるんです。そういったメンタリティーは学びになりましたし、その精神に刺激を受けて帰国後はなんでも「とりあえずやってみる」「できる」というメンタルになりました。この2か国での経験、学んだマインドは引退した今も生きていますし、あらためて海外に行ってよかったなと思いますね。
── 帰国後、Jリーグでもプレーされましたが、海外でプレーする以前と変化した部分はありましたか。
巻さん:帰国後は東京ヴェルディでプレーしていたんですが、当時は自宅がある千葉から毎日2時間半近くかけて電車で練習場に通っていたんです。しかも満員電車に乗って。その生活を2年半ほど続けました。
海外でいろいろな経験をして、自分は社会のことをあまり知らないなと気づいたんです。だから、まずは満員電車で通ってみることから始めて。どうすれば効率的に行けるか、空いている車両はどこなのか、満員電車で通勤するサラリーマンの気持ちはどういうものなのかを感じたかったんです。週末もファンやサポーターの方のことが知りたくて、電車で通っていました。
スタジアムから帰宅するときに、電車のなかで「この選手のプレーよかったね」とか試合の話がいろいろ聞こえてくるんですよ。スタジアムから駅までファンの人たちと一緒に雑談しながら歩いたこともありました。そういう経験も楽しかったですし充実していましたね。
平日は満員電車に乗って通勤し、週末はスタジアムに足を運んでくれる方々の生活を身近に感じて、応援していただいていることが当たり前ではないと感じましたし、あらためてファンやサポーターのためにも頑張らならければとより感じながらプレーするようになりました。
── 好奇心が旺盛なタイプなんですね。
巻さん:もちろん好奇心はありますが、 「自分は社会のことをあまり知らない」という気づきは、裏を返せば「無知だからこそできることもたくさんある」ともいえます。何か思いついたときに「それは絶対、無理だよ」といわれるようなことでも、僕はそうは考えず積極的にチャレンジしたいと思えるようになりましたね。