当事者同士だから信じられる言葉
「たまたまTwitter(現・X)を始めて、自分と同様に悩む人が多くいることを知りました。そして、においに悩む人たちがオフ会を開いているのも知って。自分がどれくらいの距離からどんなにおいがしているのか、本当のことが知りたくなりました。
そこで自分でもオフ会を開いてみると、同じ立場の人から『くさくないよ、においはしないよ』って言われたんです。その人の『くさくない』という言葉は、両親や友人よりもずっと重みがありました。同じ苦しみを抱えた人は、私と似たような経験をしているはず。だったら絶対にウソをつかないだろうと思えたんです。そのときに初めて自分は、くさくないのかもしれないと思えました」
その後もオフ会を数回重ねて少しずつ、今の自分はくさくないと思えるようになったそう。周囲を気にしすぎず、バスや電車にも乗れる、ふつうの生き方ができるようになっていった中道さん。
「Twitterを始めてみると、においに悩み、死にたいとまで思っている人がたくさんいることに驚きました。私も死を考えた時期があり、気持ちがとてもわかります。子どもの頃に人からにおいを指摘されると、それがトラウマになってしまう場合も。本当はそんなことがないのに30、40代になっても自分はくさいまま変わっていないと信じこんでしまう。『くさい』という言葉は、人を死に追い込めるくらいとても恥辱的なんだと思います」
においを気にする人のなかには、他人と接することを避け、引きこもりになる人や人間関係を悪化させる人も少なくありません。オフ会を数回開催したことで、私はにおいの悩みから解放されました。でも、世の中にはまだ同様に悩む人がたくさんいます。その人たちにも幸せになってほしいと思うようになり、クラウドファンディングで資金を集め、におい悩みカフェ「ゆあのあ」をオープンしました。
ふだんは一般的なカフェとして運営していて、月3回ほど『におい悩みカフェ』を開催。会員制にしてプライバシーを守っているのも特徴のひとつで、2023年のオープン以来、全国から約270人が来店しています。

「ワキガ、口臭、IBS(検査で異常がないにも関わらず、慢性的に腹痛や便秘、下痢を引き起こす)、PATM(自分の皮膚ガスによって周囲に咳やくしゃみなどを引き起こしていると感じる症状)などは直接、命に関わる病気ではありません。でも、対人恐怖症や自己嫌悪を引き起こし、日常生活さえ難しくします。こうした悩みは、同じ思いを抱える人にしかわかりません。だから、気持ちをわかり合える人が集まれる場所を作ろうと思ったんです」
におい悩みカフェでは、中道さん自身がどのように生き、なぜお店を開いたかを話すところからスタート。においが気になる「あるある話」などをすると、自分と同じだと共感してもらえることで緊張していた場の空気が緩んできます。希望があれば、その人のにおいを嗅ぎ、どんなにおいがするか、どの程度の距離までにおうかなども正直に伝えます。食事後や汗をかいた後に変化があるかも確かめ、においの軽減方法まで一緒に考えているそう。
「お店に来て1週間で『自分は自臭症(実際にはにおいが気にならないのに、自分が悪臭を放っていると思い込んでしまう心理状態)だった』と気づく人もまれにいますが、いっぽうで、3年経ってもまだにおいが気になる人も。人それぞれですが、少しずつ明るくなっていたり、自信を取り戻したりする姿を見ていると、この仕事を始めて本当によかったと思います。
においに悩む私たちにとって、『ふつうに生きる』のは、それだけで幸せなこと。ゆあのあが、においに悩む人たちにとって、そうなるきっかけのひとつになれれば嬉しい。この先もずっと、身体が動く限り、続けていきたいと思っています!」
取材・文:さいだ多恵 写真:中道亜希子