2013年に難病・スティッフパーソン症候群の疑いで入院し、車椅子生活となった作家の中村うさぎさん。女性であることをテーマにした著書を数多く執筆してきた中村さんですが、病気になったことで「女であること」に変化があったといいます。(全4回中の4回)

ファスナーが上がらないなら、シリコンを抜けばいい

── 中村さんはこれまで、「女性であること」をテーマに作品を書かれてきました。2013年にスティッフパーソン症候群のような症状を発症して入院後は、夫の介護が必要な状態になりましたが、この病気を通して考え方に変化はありましたか?

 

中村さん:退院直後ぐらいまでは、女性として美しくありたいとか、女性として価値を認められたいという気持ちがまだあったんです。いつか歩けるようになったら、遊んだりデートをしたいなって思っていました。だから、治療で使ったステロイドの副作用で体重が増えたときはショックでしたし、見た目が変わっていくこともかなり気にしていました。でも今は、女性としてどうこうという感覚はまったくなくなりましたね。

 

── 美容整形で胸に入れたシリコンも抜去したと聞きました。

 

中村さん:足が不自由になって動かなくなったぶん、消費カロリーがすごく少なくなって太りやすくなったんです。60代になって基礎代謝も落ちてきたんですが、私は食いしん坊なので、今まで通り食べていました。そしたら洋服が入らなくなって。普通の人だったら「痩せればいいじゃん」って思うかもしれませんが、私の場合、「シリコンを抜けばいいじゃん」と考えたんですよね(笑)。胸がひっかかって、背中のファスナーが上がらないからシリコンを抜きました。

 

── シリコンを抜去することに、迷いはなかったのでしょうか。

 

中村さん:なかったですね。ひとりでトイレに行けなくなってからは、しばらくオムツを履いていましたから。その時点で、今後恋愛とか誰かと性的な関係を持つことはないなって思っていました。だからもう胸もいらないかって。退院して間もないころは、デートしたいとかそんな欲求もまだあったんですけどね。異性と食事に行って、いい雰囲気になってお泊りすることになったけど、「どうしよう、私オムツ履いてる!」って焦る夢を見たりもしました。

 

── 今は、そのような夢を見ないんですか?

 

中村さん:見ないですね。今は自分で歩けるようになったから、オムツは必要ないんですけど、オムツが本当に便利で今でも使用しています。病気になる前からトイレが近い体質だったので、外出しているときやお腹が痛くなると、いつもハラハラしていました。でも、今は外出していても「オムツがあるからいいか」っていう安心感があるんです。あまりにも快適すぎてオムツが手放せなくなってしまって、持ち歩いています。普通のパンツじゃなくて、オムツを選んだ時点で、私は女として生きていないなと思ったんですよ。だから、胸を抜くことに関してもなんのためらいもなかったですね。

 

美容整形をする前の中村うさぎさん