心肺が停止したことよりもショックだったこと

── 生死の境をさまよったということで、死生観など変わったりしましたか?

 

中村さん:意識がなかったんだよと言われても「へえ」という感じでしたね。今、生きてるわけだから。「そうだったんだ」みたいな。死にかけたことに関しては、落ち込むとか、動揺するとかもまったくなくて、他人事みたいにとらえている部分があります。それよりもいちばん落ち込んだのは、入院中に歩けなくなったことですね。

 

── まったく歩けなくなったんですか?

 

中村さん:はい。今は、ひとりでも歩けるようになりましたけど、入院したときは手足がつっぱり始めて。指はまがったまま固まって、足もこわばってまったく歩けなくなってしまったんです。だから車椅子生活になりました。

 

でも、当初は歩けるような気になってしまうんです。だから、冷蔵庫にあるものを取りに行こうとして、歩こうとするんだけど、転んで起き上がれなくなることがあって。「私、歩けないんだ」と実感しました。今まで普通にできていたことができなくなって、それには絶望しましたね。もう以前のような体に戻れないんだと落ち込みました。

 

 

車椅子生活が始まり、退院後は自宅でトイレにすらひとりで行けなかったという中村さん。ゲイの夫による、献身的な介護生活が始まります。

 

PROFILE 中村うさぎさん

なかむら・うさぎ。作家・エッセイスト。著書『ショッピングの女王』『女という病』『私という病』など。2019年に、スティッフパーソン症候群の疑いで入院。現在はSNSで、日々の出来事を発信。

 

取材・文/大夏えい 写真提供/中村うさぎ