病床で「私は世界を救わなきゃいけない」と
── 記憶などははっきりあったんでしょうか?
中村さん:自分で記憶はしっかりしていると思っていたんですけど、今は当時のことがまったく思い出せないんです。認知症って、自分が認知症だという自覚はないって言うじゃないですか。言っていることがおかしい、とか辻褄があわないとか。本人にその自覚はなくて、まわりの人間だけが気づいてる状態だと思うんですけど、本当にそんな感じです。夫がお見舞いにきたら、私がベッドの上に座っていて「私は世界を救わなきゃいけないの」って言ってたらしいんですよ。大真面目に(笑)。
── その記憶もまったくないんですか?
中村さん:ないんです。夫も「この人おかしい…」と思ったらしいです。でも夫は「そうなんだ、大変だね」ってちゃんと返したみたいで。それに対して「そうなの。世界を救わなくちゃいけないんだけど、私にはその力がないの。困ったわ」って、話していたみたいです。
── そういうことを、日頃から思っていたんでしょうか?
中村さん:思わないですよ(笑)。別人にのりうつられていたみたいな感覚です。きっと、脳の機能が低下していたんだと思います。当時のことは今もいっさい思い出せないです。明らかにおかしな言動が増えてから、2週間後に心肺が停止しました。
── 病名がつかないうちに、心肺が停止したんですね。
中村さん:心肺停止になって医師が蘇生をして、3日後に意識が戻ったようです。その後、ステロイドを投与したら症状が少し緩和したので、これは自己免疫疾患かもしれないとなりました。そこから「恐らく、スティッフパーソン症候群なのではないか」と言われて、スティッフパーソン症候群の治療が始まりました。
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── 心肺停止後、3日間も意識がなかったんですね。
中村さん:はい。私が意識を失っている間、まわりは大騒ぎだったと聞きました。でも、私自身は当時の記憶がまったくない、倒れたときも意識が戻ったときも覚えていないんですよね。スイッチが切れたように意識がなくなって、目を覚ましたらみんなが大騒ぎしていたみたいな。普通に寝て、普通に起きたという感覚です。「3日間、意識がなかったんだよ」と後から聞いてびっくりしました。