管理職に昇進した1年後の35歳で悪性の甲状腺がんが見つかり、どん底を経験した後に、歌手になる夢を叶えた木山裕策さん。デビュー後12年間は歌手と会社員生活を両立するために奮闘。ところが、思わぬ苦難が待ち受けていました。(全4回中の2回)
念願の歌手デビューも思春期の長男との溝が
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── 木山さんは、家族への想いを込めた『home(ホーム)』で2008年に歌手デビュー。同曲がヒットし、代表曲のひとつになりました。デビュー前とは生活が大きく変わったと思いますが、4人のお子さんたちからの反応はいかがでしたか?
木山さん:僕がデビューした当時、長男は小学5年生。ちょうど思春期にさしかかったころで、気難しい時期が1年近く続きました。僕のことで学校の友だちからいろいろ言われたらしく、優しい性格もあってか悩んでしまったようで。体育系タイプで交わすのが得意な二男と三男、幼かった四男にはそこまで影響がなかったのですが。僕は僕で会社員と歌手の両立で精一杯の状態で、自分の思いをうまく長男に伝えることができず、ギクシャクした時期がありました。
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6年生の最後のころには立ち直ってくれたのですが、そのとき長男は妻にこう言ったらしいんです。「人生にはイヤなことがあるけれど、あんなおじさんでも39歳で歌手になれた。人生って何が起こるかわからないから、自分ももうちょっと頑張ってみようと思う」って。
それを聞いたときは涙が出ました。あのころは時間に追われてなかなか話せなかったけれど、僕の挑戦を長男がそんなふうに受け取めてくれていたと知り、救われました。大変な時期もあったけど、息子は自分の力でそこから抜け出してくれたんですよね。中学に入ってからはもとの優しい子に戻りました。今はすごく仲がいいです。
── 歌手デビューと息子さんの思春期が重なったのですね。でも、一緒に乗り越えられてよかったです。
木山さん:思春期ってどの子にもあると思いますが、嵐のようにやってきて、いつの間にか去っていますよね(笑)。「あれ、何だったの?」って思うくらい一気に。でも、親が接し方を間違えてしまうと、「親が全然、自分をみてくれなかった」と大きなしこりが残ってしまうと思う。親が思春期に子どもとしっかり向き合うことはすごく大事だと感じています。僕自身、どんなに忙しくても、様子がおかしいと思ったときには声をかけたし、子どもから何かサインを感じたときは僕なりに向き合ってきたつもりです。
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たとえ、ケンカになってもいいんです。「どんな君もちゃんとみてるよ」って伝えたいじゃないですか。遠く離れていたとしても、子どものことをみていることが伝われば、子どもたちは大人になっても自分の力で頑張れると思うんです。
僕は基本的に家族が中心だと思っているので、何かあればすべての優先順位を下げてでも家族との時間を大切にしてきました。子育てしてきた28年間を今振り返ってみても、それはよかったなと思います。とはいえ、親ができることって、お腹いっぱいご飯を食べさせることと、子どもたちを見守ることくらいなんですけどね。
50歳まで12年、歌手と会社員を両立して
── 2008年に歌手デビューしてから10年以上、会社員生活を続けたそうですね。
木山さん:デビュー後、会社員は12年続けました。平日は会社に行って、土日に歌手の仕事をして。平日、テレビ番組に出演するときだけ有給休暇を取っていましたね(笑)。
会社を辞めなかった理由は、やはり子ども4人を育てるためです。いくら歌いたくても、家族がお腹をすかせたり不幸になったりしたら、そんな状況で歌えるわけがない。それに、会社員として仕事を通して学べたことも多かったんです。35歳で課長になってからはチームのみんなで成果を出すなど、ひとりでは経験できないことが多くて。自分の成長につながっていたので、本当にありがたかったですね。
── 歌手と会社員の両立で大変だったことはありますか?
木山さん:毎日、とにかく時間がたりませんでした。残業が当たり前で、帰宅するのは夜中。そんな平日が続き、金曜日の夜に気持ちを入れ替えて、週末は歌手になる。デビューしてから3年間は休みがないほど忙しかったけれど、頑張りたかったから休む気にもならなかった。ただ、子どもたちとの時間は大切にしたくて、週末は現場に子どもたちを連れて行っていました。