SNS全盛時代の昨今、無尽蔵に発信される「いいお母さん」への呪縛に苦しんだ経験がある方も多いかもしれません。そんな経験を赤裸々に描き話題となっているのが、テレビ東京局員兼漫画家の真船佳奈さんの最新作『正しいお母さんってなんですか!?』(幻冬舎刊)。一時は精神的に追い詰められたという真船さんに当時の思いを伺いました。(全2回中の1回)
夫との衝突よりキツかった「いい母」になることのプレッシャー
──『正しいお母さんってなんですか!?』では、真船さんが「ちゃんとしたお母さんとしてみられたい」というプレッシャーに苦しんだ日々が描かれています。本作を描こうと思ったきっかけを教えてください。
真船さん:前作『令和妊婦、孤高の叫び!頼りになるのはスマホだけ!?』(オーバーラップ刊)で妊娠出産期のことを描いて、おかげさまで多くのお母さんから共感の声をいただきました。産後すぐの夫との衝突を中心に描いたのですが、ラストは夫と仲直りして終わったんです。ただ、実際にはその後もっと精神的に追い詰められた時期があって。でも、ページ数的にもそこまでは描けないなと思っていました。
そのことを今回の本の編集担当の方と話しているうちに、いいお母さんになろうとして思っていた以上にプレッシャーを感じてたんだと気づいたんです。それで「当時のことを一冊の本として描いたほうがいいかもしれない」と感じ、執筆を始めました。
── あとがきで「本作の執筆にはすごく勇気が必要だった」と振り返っていますね。
真船さん:そうですね。途中で何度も描くのが嫌になってしまって。これが世に出たときにどういう反応をされるのか、本当にわからなくて。というのも、出産直後の悩みって、ある程度どんなお母さんにも共通するものが多いと思うんです。ただ、その後は、お母さんのタイプによって育て方が違うし、子どものタイプによっても、育てる環境によっても、生じる悩みも千差万別ですよね。なので、自分の体験がほかのお母さんたちに共感してもらえるのか、不安がありました。
あとは、SNS上で叩かれているお母さんを日常的に目にすることも不安でした。SNS上では、「その育て方は違う」と具体的な育児法で叩かれている人もいれば、「だから『子連れ様』って嫌い」「できないなら子どもを産むな」といった子持ちそのものへの批判までありますよね。いろんな意見を見れば見るほど、私が母としてのつらさを発信すると、確実に反発する人がいるだろうなと思ったんです。それがすごく怖くて…。特に私は社名も顔も名前も出して漫画を描いているので、叩かれたらどうしようという葛藤がありました。
──「育児垢炎上の怖いところは、石を投げているのが子育てを頑張るまともなママ垢だったりする」というセリフにハッとしました。
真船さん:私自身、周りのママの話を聞いて「そんなことしちゃうの?ちょっと子どもがかわいそうじゃない?」って思うこともあって。子どもを産んだ瞬間、自分の子だけでなくほかの子どもも尊く、守りたい気持ちが芽生えて、親のような気持ちになってしまうんですよね。動物の親子モノ映像でも100%泣くし、運動会で全然知らない子が踊っている映像でも涙が出たりする。他人の子どもに関することでも、ヒヤヒヤしたり、怒りが湧いたりという心の琴線が振れやすくなったと感じるんです。
たぶん、ほかのママたちも同じような状態になっていると思います。それで「もっと母親も気楽にいこうよ」という発信をしたつもりでも、「お母さんがそんなに気を抜くなんて子どもがかわいそう」と反応してしまうお母さんもいる。突き詰めていけば「みんな子どもが好き」ということなんですけど、難しいですよね。