2人の娘さんの入院に付き添い、そして次女の死を経験した光原ゆきさん。付き添い入院の過酷さを目の当たりにし、失意の中から環境改善のためにNPO法人を設立します。そして、立ち上げから10年。ついに国を動かしました。(全2回中の2回)

付き添い入院の過酷な現実

団体設立間もない頃からサポートくださっている「No Code」の米澤文雄シェフと、ボランティアの皆さん
団体設立間もないころからサポートを行う「No Code」の米澤文雄シェフと、ボランティアの皆さん

── 光原さんは、子どもの入院に親が付き添う「付き添い入院」を経験し、その環境の過酷さを変えるためNPO法人を立ち上げました。具体的にはどのような活動をされているのでしょうか。

 

光原さん:最初は、子どもが入院中の家族が滞在するファミリーハウスであたたかいご飯を作ってお母さんたちに提供する「ミールdeスマイリング」の活動からスタートしました。私自身は、料理がとても苦手なので、料理の得意な友人たちのおかげで実現することができました。ありがたいことに、調理を指導してくれる一流シェフにも出会え、今ではファミリーハウスだけでなく、小児病棟にも定期的に季節の野菜たっぷりの食事を提供しています。

 

でも、2020年にコロナ禍になり直接、食事を届けることがまったくできなくなってしまったんです。コロナ禍によって病院への出入りや交代が難しくなり、付き添う家族の孤立が深まりました。この状況にたいしてできる支援として、レトルト食品や缶詰、飲料を届けるようになり、さらに着替えのTシャツ、栄養ドリンク、化粧品などを提供する「付き添い生活応援パック」を始めました。今まで9000箱以上をお届けし、今ではうちの主力事業となっています。

 

「付き添い生活応援パック」の中身
「付き添い生活応援パック」。現在、120社以上の企業が支援品の提供に協力している

── NPO設立のきっかけとなった、娘さんたちの「付き添い入院」とはどのようなものだったのでしょうか。

 

光原さん:2009年生まれの長女と2014年生まれの次女、2人ともに先天性の疾患があり、長女は半年、次女は11か月入院しました。産後の体で寝返りの打てない簡易ベッドや小さなベッドで子どもと一緒に体を丸くして寝るしかなく、常に寝不足でした。腰痛がひどくて、どこを向いても痛くて寝られませんでした。

 

特につらかったのが食事です。ほぼコンビニ食になってしまい、野菜不足で野菜ジュースばかり飲んでいましたね(笑)。栄養のある母乳を子どもにあげたいのに、という葛藤もつらかったです。

 

また、付き添い入院では、本来は禁止されている看護師や看護補助者の代わりにケアをするのも付き添いの親の務めというのが現実でした。服薬などの医療行為のプレッシャーも重なり、24時間息つく暇もない環境でした。

 

── 親が看護師の仕事を手伝うことが常態化しており、かつ食事などの支援がない環境というのは、非常に過酷ですね。

 

光原さん:長女が生後3か月のころに、私が高熱を出して倒れてしまったことがあります。感染症の可能性もあるので病院から出され、1週間後に戻ったら、長女はひと回り小さくなっていました。脱水症状を見逃されていたんです。おむつの交換頻度も少なかったためか、おむつかぶれもひどくて。毎日面会に行っていた親族が長女の写真を撮ってくれていたんですが、どんどん笑顔がなくなっていったんです。

 

脱水を見逃されるくらい目を配ってもらえず、泣いても誰も来てくれなければ、赤ちゃんは表情をなくしていきます。看護師さんたちは謝罪してくれましたが、彼らを責める気にはまったくなれませんでした。むしろ、熱を出してしまった自分を責める気持ちのほうが強かった。圧倒的な人手不足のなか、看護師さんたちが必死に子どもたちのために休みなく働いてくれているのを見てきましたから。

 

── 付き添い入院をしている最中、お子さんがお亡くなりになる経験もされました。

 

光原さん:長女は服薬も必要なくなるほど元気になりましたが、次女は入院中の生後11か月で容体が急変して亡くなりました。

 

次女の死後は、「私も一緒に燃やしてほしい」と願うほどでしたし、泣くばかりの日々でした。でも、長女の存在や周囲の温かい支えのおかげで、次女が生まれてきてくれた意味を考えるようになりました。そして、親の付き添い入院の環境をよくすることができれば、次女が生まれた意味をつくることになると思うようになりました。そして、2014年11月にNPOの立ち上げにいたりました。

国を動かした親たちの要望書

病院が配置できる看護師の人数は、小児病棟でも大人の病棟でも同じだという

── 付き添い環境の実態調査を実施し、国に対してその環境改善などの要望書を提出されたそうですね。何か変化はありましたか?

 

光原さん:お母さんたち一人ひとりへの直接の支援を設立時から行ってきましたが、それだけでは状況は変わらない。付き添い入院の過酷さの根本原因である医療制度と向き合わなければならない、と動き出しました。

 

付き添い生活応援パックの発送が3000を超えた2022年11月から12月にかけて実態調査を行いました。70問も質問があるアンケートで、1000人ぐらい集まればと思っていましたが、なんと3643名もの回答を得ることができました。これまで応援パックをお届けしたお母さんたちが中心となって、SNSなどで拡散してくださった結果でした。

 

── それほど付き添い入院に困っている方がいらっしゃったんですね。

 

光原さん:入院生活でいちばん大変な思いをしているのは、やはり子ども本人ですよね。親もそれをわかっているし、親が頑張るのは当たり前だという社会の無言の圧力もあって、声を上げづらいテーマだったんだと思います。

 

私たちの活動を知ったお母さんたちから多く寄せられるのが、「気持ちが楽になった」という言葉です。親なのに、大人なのに、これぐらいでつらいと言ってはいけないと思っていた、でもつらいと感じていたのは自分だけではなかったと知ってホッとした、と。私たちの活動を認識していただけたこととSNSの力で、そんな親御さんたちの声を可視化することにつながったのではないかと思っています。