「洗い方が違う」「きちんとたたんでよ」。夫が家事をしていると妻からこう言われることがあるかもしれません。このときに怒りで夫婦ケンカの火をつけないためにどうすればいいか?男性の家事についても講演活動するプロレスラー・蝶野正洋さんの考えと言葉が深かったです。(全4回中の4回)

ドイツでは男性の料理も女性の日曜大工も当たり前

── ドイツ人のマルティーナ夫人と家事や子育てに向き合う蝶野さん。最近では、「男性の家事」についての講演活動もされ、夫婦で家事をシェアする大切さを積極的に発信されています。「家事は妻がやるもの」という価値観を持つ男性もいまだにいますが、蝶野さんの家事シェアのルーツは、どこからきているのでしょうか。

 

蝶野さん: やはり妻の影響が大きいですね。彼女が過ごしていたヨーロッパでは、夫婦で家事をシェアするのは、当たり前のこと。特にドイツは女性が強く、男性は非常にマメで、客人が来たら男性がキッチンに立ってゲストをもてなすことも多いんです。また、ドイツ人女性は、日本だと男性の役割だと思われている日曜大工的な家事も、どんどんこなします。そこも50:50。そうした環境で育った妻と暮らしていくと、「家事は夫婦でやるもの」という感覚が養われていった感じですね。

 

丼飯とみそ汁
蝶野さんお手製の丼飯とみそ汁

一方で、自分たちの世代はまだ「レスラーの妻はおかみさんとして夫を裏から支え、後輩や客人の面倒をみるもの」といった習慣がありました。実際、自分も30代くらいまではプロレスのことで頭がいっぱいで、家事までなかなか手が回らず、「夫婦で家事をシェアし合う」ことが理解できていなかった部分があったと思います。

 

── 男性にも「同じように家事をしてもらいたい」と思いながらも、「家事のやり方を崩されるのはイヤ」「中途半端、やりっぱなしの家事にイライラ!」という妻たちの声も聞きます。

 

蝶野さん:「夫婦の家事あるある」ですね。家事シェアについて男性に話を聞くと、「妻の家事チェックが怖い」とおっしゃる方がすごく多いんです。「お皿の裏がちゃんと洗えていないじゃない」「洗濯物はちゃんとひっくり返しておいてと言ったわよね」とかね。本来、夫婦は境界なくお互いに家事をやるべきですが、奥さんのチェックによって、ものすごくハードルを上げられてしまう。そこにひるんでしまったり、不満を持っている夫は、多いと思います。

 

せっかく料理を作ったのに、子どもの前で「ここ汚れてるよ」なんて言われちゃったら、面目丸つぶれでムカッときちゃうじゃないですか。でも、「ありがとう」のひと言が先にあって、「ただ、ここはちゃんとキレイにしておいてね」と言ってくれたら、次も気分よく家事ができる。これは、男性側も同じです。お互いに相手が家事をすることを当たり前だと思わず、ちゃんと「ありがとう」と言葉にする。シンプルだけど、それがすごく大事だと思うんです。

 

蝶野家の食卓の様子
家事シェアは当たり前の蝶野家。料理だってお手のもの!

── 家事スキルの高い人ほど、パートナーに同じレベルを求めてしまいがちなのかもしれませんね。そうした悩みを抱える男性たちには、どんなアドバイスをされるのですか?

 

蝶野さん:やってはいけないのは、主導権争いです。どっちがリーダーとか、相手に主導権を握られるのが悔しいとか、そんな小さなことにこだわっていては、ギスギスするだけ。講演では「家のなかでは奥さんを崇拝してください」といつも伝えているんです。「こういうやり方でこの家事をやってね」と言われたら、いちいち疑問を持たずにその通りにやる。

 

「今日プラスチックのゴミ捨ての日でしょ?なんであそこにペットボトルが1本残ってるの?」と言われると、「1本くらい次のときに捨てればいいじゃないか。いちいちうるさいなあ」と思うかもしれません。でも、現状、妻側のやり方で家のなかが快適に回っているのならば、そのやり方を覚えるほうが早いですよね。

夫婦あるある「買い物を頼まれて怒られる」の巻

── 蝶野さんご自身は、家事のやり方で夫婦ケンカになったりすることはないんですか?

 

蝶野さん:ケンカはないですけれど、怒られることはいまだにありますね。この前も、頼まれていた買い物を失敗したばかりです。「朝食用に甘すぎない菓子パンを買ってきてね」と頼まれたのですが、いざパン屋に行ったら、おいしそうなコロッケパンが並んでいたんです。うれしくなって家族分を買って帰ったら「なにこれ、誰が食べるの!お願いしていたパンがないじゃない」と文句を言われて…。たしかによく考えると、うちでは妻と娘は甘めのパンしか食べないのですが、そのときは「こんなおいしそうなパンだから喜ぶに違いない!」と、思っちゃったんですよね。

 

蝶野正洋と妻、長女、長男
家族でイベントに参加することも

── 頼まれていた甘いパンを買ったうえで、コロッケパンも買えばよかったのでは…?

 

蝶野さん:たしかに…。もちろん自分が悪かったことはわかっているのですが、男性って、どこかそういうところがあるんじゃないかと思うんです。相手の好みや都合よりも、自分の思いが先立って「こっちのほうがよさそう!」と考えてしまう。それに、家族それぞれの好みをすべて把握して、子どもはこれ、ママはこっちと、想像しながらすべての買い物を済ませるのって、実はけっこう難しいんですよね。