「母子家庭を苦労と感じたことはない」

── 武蔵さんの応援で海外へ行く機会もあったんですよね。

 

鈴木さん:はい。最初に行ったのは、U‐17W杯が開催されたメキシコでした。彼が初めて海外でやった試合で、初戦の相手はジャマイカだったんです。当時は彼が17歳で、どちらの国籍も選べる年齢だったので、ジャマイカのメジャーな新聞社の記者が私の元へ来て「ジャマイカ人なのに、なんでジャマイカ代表にならないのか」と質問してきました。私は「彼は今日本人の代表になりたいと思っているから。ジャマイカで生まれて、日本人とミックスの顔をしているけど、彼は日本人を選んだんです」と返答しました。ジャマイカにずっと住んでいたらジャマイカ代表になったのかもしれませんが、初戦でジャマイカを相手に日本代表として勝利できたことは、武蔵が自分のアイデンティティを確認する機会にもなったのかなと思います。

 

そのあとは、マレーシアやカタール、オリンピックのときはブラジルにも行きました。実は、私がジャマイカで働いていたときに起こした会社にいた優秀な女性が出産して、そのお子さんがケンブリッジ飛鳥くんだったんです。ジャマイカ人との間に産まれた同い年の2人が、それぞれの競技でオリンピックに出ることがうれしくて、リオでは「ケンブリッジ飛鳥」と書かれた旗を持って、陸上も応援しました。武蔵のおかげで、行ったことがない国を旅できることは本当に楽しかったです。

 

鈴木武蔵の母・真理子
カタールで試合観戦をする真理子さん

── 母子家庭と聞くと、なんとなく「苦労」を連想しがちですが、真理子さんのお人柄がとても明るくて、お話を聞いているだけで元気が出てきます。

 

鈴木さん:苦労という言葉は「苦しい労力」と書くと思うのですが、私は労力をかけることを苦しいとは思っていなくて。むしろ、楽しんでいるから「楽労」なんです。これまで、テレビ番組などのインタビューで「女手ひとりで育ててご苦労がおありだったでしょう?苦労話を聞かせてください」みたいなことをよく言われてきたのですが、そのたびに苦労してないですよ~と思っていたんです(笑)。そういう話をしたほうが番組的にはよかったのかもしれないですが、本当に苦労した記憶がなくて。サッカーの送迎や当番が仕事と重なるときもあり、物理的に大変なことはありましたが、苦労ではないですね。そんなときは私の両親やママ友たちが助けてくれていました。ただ、子どもたちに申し訳なかったなと思う部分としては、お父さんがいなかったから、お父さんという存在を見せられなかった。私ひとりがお父さん役になったりお母さん役になったりしていたので、そこは申し訳なかったかなと思っています。

 

皆さん、シングルマザー=苦労しているとイメージしがちですが、少なくとも私の場合は、送迎だって応援だって子どものためにやっていたことだったので、楽しかったんです。苦しいと思った時点で、やりたくないこと。苦しいと思うならやらなくていいと思います。ただ、子どもが大きくなればなるほど送り迎えのときだけが2人の時間になるから、その時間を有効活用したほうがいいですよ、子育てはあっという間だよ、ということは皆さんにお伝えしたいですね(笑)。