サッカー元日本代表、鈴木武蔵さんの母・真理子さん。プロデビューから数年後、思うような結果を得られていない愛息の様子を見て、「プレーのことは言わないけど、精神面のことは言わないと」と当時在籍していたV・ファーレン長崎の本拠地へ向かいました。武蔵さんが奮起するきっかけとなった、真理子さんの言葉とは。(全3回中の3回)

2年間くらい成績を残せない息子を見て

── 武蔵さんの著書では、試合で思うような結果を出せず、「このまま俺は大成せずに終わるんじゃないか」と危機感を抱いたときに、お母さまから1本の電話があったと書かれていました。

 

鈴木さん:実は、電話したのではなくて武蔵が当時住んでいた長崎まで行ったんですよ。高校卒業後に入団したアルビレックス新潟からV・ファーレン長崎に行くまでの間、レンタル移籍をしたり怪我をしたりと、2年間くらい成績を残せていない時期があって。彼のプレーを見ていると、何となく100パーセントの力を出せていないような、サッカーを楽しんでいないような感じがして、ずっと気になっていました。家に泊まりに行ったときも、奥さんは料理や家事を一生懸命やってくれているのに、武蔵はそれを当たり前だと感じているように私には見えて。奥さんにも子どもにも周りの人にも、すべてに対して感謝の気持ちを大切にしないと向上できないんじゃないかなと思ったので、LINEで伝えるよりも直接口で言わないとダメだと感じて、長崎へ行きました。

 

鈴木武蔵選手と母・真理子
鈴木武蔵選手と母・真理子さん

── お母さまはどんなお話をして、武蔵さんはどんな反応をしていましたか?

 

鈴木さん:奥さんが作ってくれたご飯を食べているときに、「むっちゃん、こんなにおいしい料理を毎日作ってくれてるのに、なんで『おいしい』とか『ありがとう』とか言わないの?奥さんにちゃんと感謝してるの?」と話しました。彼は「あー。あ、おいしいよ。あ、ありがとう」みたいな反応でした。プレーのことは言わないけど、精神面に関しては、すべてに対して感謝をすることが基本かなと思っていたので、みんなが支えてくれているからサッカーができているという喜びをわかってほしいなと思ったんです。

 

── のちに、武蔵さんは自身初となる2ケタ得点を達成しました。

 

鈴木さん:そうですね。地元には、私の友人が会長をしてくれている「鈴木武蔵FanFunClub」という後援会があって、みんなでバスツアーをしたり、武蔵の試合を見に行ったりしているんです。年末年始には忘年会や新年会を開催していて、武蔵も顔を出すのですが、11点ぐらい得点したあとの新年会に来たときに、「このピッチでやれることに感謝。このスタジアムに感謝。監督・スタッフ全員に感謝。そういう気持ちを持つようになってから、うまくいくようになりました」みたいな話をしていて。このときばかりは、長崎まで言いに行っておいてよかったなと思いました(笑)。