着物文化を取り戻している感覚がある

着物のYouTube撮影の様子
着物のYouTube撮影の様子

── 着物のYouTubeチャンネルを始められたのはどうしてですか。

 

近藤さん:大学の先輩でもある演出家と一緒にやっていた番組が終了したとき、「何か一緒にやろうよ」という話になったんです。ロケも編集も、制作会社のクオリティで作ってもらっているので儲けにはなっていないのですが、手間暇をかけてコツコツ作っています。そのことを評価してくださっている方もいますし、着物業界の方は知ってくださっていて、お声をかけていただくようになりました。私は着つけは無料で習いましたし(笑)、着物の専門家でもありません。自分では「着物愛好家」と名乗っています。

 

昭和の時代と違って、時代劇が少なくなった今は「着物といえば」で思い浮かぶ方がいらっしゃらない。着物が似合う美しい女優さんは大勢いらっしゃるけれど、普段着ていらっしゃるイメージはない。そこへたまたま「着物を着ているインフルエンサー」として注目してもらえたのだと思います。

 

私は普段はハトですけれど、仕事があるときは毎日のように着物を着ます。ちょっとした食事会でも、ドレスコードに悩まなくていいから便利ですよ。高見えするし、ご一緒する方に喜んでもらえますし。国によって反応に差はありますけれど、海外の人にも喜ばれます。

 

近藤サト
2024年5月に開かれたYouTubeイベントで

── 気軽に着られたらすてきですよね。ただ着物は敷居が高い気がして…。

 

近藤さん:「うるさがた」が多いイメージがあるかもしれませんが、最近の着物業界には「ルールをうるさく言うのはやめようね」という空気がありますよ。合わせの作法や仕立ても温暖化の影響でずいぶん変わってきていますし、今はかなり自由になっていると思います。

 

近年は若い人を中心に、着物ブームが来ていますよね。ライダース着物もそうですけれど、ポリエステルの着物なら気軽に着られますし、リユースの着物も出回っています。「本物志向の高級着物が売れなくなる」という人もいますけれど、入口はライダースでもいいじゃないですか。それで月に1回でも2か月に1回でも着物を着る人が増えて、日本人のアイデンティティとして着物が見直されればいいんじゃないかと思います。

 

洋服の世界だって、エルメスはもちろんいいけれど、ユニクロもいいですよね。日本人が毎日、着物を着ていた時代は、着物の世界にもユニクロがあったはずです。それが、高度経済成長期に着物はハレの日に着る高級品になって、私たちの手を離れてしまった。

 

私はありがたいことに着物の世界でも「変人枠」だから、高級な着物を着てもライダース着物を着ても「あの人だから、しょうがないか」と思ってもらえます。もしかしたら、若い女性が着ていたら、ライダース着物は話題にならなかったかもしれません。アラカンの白髪の女性が着ているから「おもしろい」と思ってもらえたのかもしれない。ライダースのような新しい着物を楽しむことで、私たちの手に「着物文化」を取り戻している感覚があります。

 

近藤サト
SNSで話題になったライダース着物

 

PROFILE 近藤サトさん

こんどう・さと。1991年にアナウンサーとしてフジテレビに入社。1998年に退社してフリーランスになり、ナレーションを中心に活躍中。母校である日本大学芸術学部の特任教授も務める。Youtubeチャンネル『サト読む。』では着物の魅力を発信している。

取材・文/林優子 写真提供/近藤サト