声には積み重ねた経験値から出る色気が宿るから
── フリーになってからは、念願だった「声の仕事」にこだわって活動されている印象を受けます。
近藤さん:1998年にフジテレビを退社して、今の事務所にナレーターとして所属したのが2011年ですから、アナウンサーよりもナレーターとしての経歴のほうが長くなりました。アナウンサー時代は「私たちにもナレーションはできるのに」と思っていましたけれど、アナウンサーとナレーターの音声表現は似て非なるものです。アナウンサーは人の話を聴いたり場をまとめたりということもしますけれど、ナレーターは声の職人なんですよね。あくまで制作物のパーツのひとつとして陰で支える仕事なので、声を聞いて私の顔が浮かぶようでは邪魔になってしまうんです。アニメを見ているときに声優さんの顔が浮かんできたら困りますよね。もちろんテロップで名前は出してもらいますし、私は顔を出す仕事もしているので、そのあたりのバランスは難しいところですけれど。
── 今後の活動はどのようにバランスをとっていきたいとお考えですか。
近藤さん:よく講演会でもお話しするのですが、ベストセラー『LIFE SHIFT―100年時代の人生戦略』の著者リンダ・グラットンが提唱する「マルチ・ステージ」、つまり1つのステージだけではなくて、まったく違うステージをいくつも持つことは、これからの生き方として有効だと思っています。私の場合は、ナレーターとしてのステージ、ビジュアルを含めた近藤サトというタレントとしてのステージ、着物のステージ、プライベートのステージがあります。飽き性なところがあって、ひとつのことを突き詰めるよりいろいろなことをやりたくなってしまうので、複数のステージを持つことで生きやすくなりました。
ナレーターとしても、いろいろなナレーションをしたいですね。コミカルなものからシリアスなものまで、声もテンションも変えて、「ひとりの人間がやっているの?」と言われるような仕事をしたい。ナレーションの業界で「近藤サトを使ってよかった」と評価していただけるのは、すごくうれしいですね。
ナレーションの仕事って、エイジレスなんですよ。声優さんもそうですけれど、赤ちゃんのせりふを50代の方がしゃべっていたりするじゃないですか。私が担当している若者対象の番組も、まさか56歳がナレーションをしているとは思わないでしょうし、私も56歳だと思ってやっていません。レギュラー番組には、70歳を過ぎた方もたくさんいらっしゃって、みなさんはつらつとされていて声もステキです。その方が積み重ねてきた経験値から出る色気は、どんどん魅力的になっていく気がします。
私も年齢を超越した声の仕事を広げていって、自分が納得するまで続けていきたいですね。
PROFILE 近藤サトさん
こんどう・さと。1991年にアナウンサーとしてフジテレビに入社。1998年に退社してフリーランスになり、ナレーションを中心に活躍中。母校である日本大学芸術学部の特任教授も務める。Youtubeチャンネル『サト読む。』では着物の魅力を発信している。
取材・文/林優子 写真提供/近藤サト