雑誌『CanCam』の専属モデルなど、多方面で活躍した徳澤直子さん。長女の出産後はモデルを休業し、看護師・助産師として仕事をしていたそうです。医療の道を志した理由を伺いました。(全3回中の1回)
看護大学の受験を決めた理由
── モデルとして多方面で活躍し、長女の出産後に看護師と助産師の資格を取得されました。社会人を経験してから学び直しをしたのはなぜですか。
徳澤さん:ありがたいことにモデルの仕事は忙しくさせてもらってはいたものの、若いときに勉強をおろそかにしていたというやり残し感を抱いていました。
実は、CanCamモデルをしながら、コソコソと通信大学で学んだり、英語を勉強したりしていたんです。「いつかもっと学んでみたい」という気持ちはずっと持ち続けていました。医療従事者や、大学や高校の先生などの仕事をしている人などが多い家庭環境で生まれ育っていることもあります。曽祖父が東京医科大学の創始者のひとりである清水茂松で、子どものころから自然と周囲から話を聞いていました。自分と医療の世界は分断されているのではなく、ルーツがあるという意識があったと思います。
── 看護大学に入学する前に、当時暮らしていたアメリカで出産を経験されたそうですね。
徳澤さん:長女をアメリカのミネソタ州で出産したのですが、医療システムも文化も違うなか、右も左もわからず初めての出産に不安な気持ちを抱いていました。そんななか、知人の紹介で、アメリカ人のドゥーラさんを紹介していただいたんです。
今は日本でも、産後ドゥーラという言葉に馴染みが出てきていると思いますが、すでに当時、現地では女性の産前産後のお手伝いをする仕事が、職業として確立されていました。ドゥーラさんに、妊婦健診も一緒について来てもらいましたし、帝王切開でのお産の際は手術室にも来てくれました。その方がいなかったら笑顔で出産を迎えられなかったと思います。生活面だけではなく、精神面もサポートしてもらい、心から安心できたんです。日本に帰国したら、私も妊産婦さんのサポートができるようになりたいと思ったのが、看護大学を受験することを決めた大きな理由のひとつになりました。
── 産後に子育てをしながら受験勉強をするのは大変そうです。
徳澤さん:正直、大変でした。基礎学力を学び直すところから始めたのですが、看護大学の一般入試は、中学生の理科からやり直して、そこから生物、化学、数学、現代文などを勉強しました。当時、1歳だった長女を育てながら勉強していたのですが、予備校のオンライン学習なども利用して、模試などを受けに行っていました。今は当たり前のようにYouTubeなどで学べる環境がありますが、当時はそこまで主流ではなく。
── 1歳のお子さんを育てながらの勉強とは頭が下がります。
徳澤さん:ちょっとかたい職業の家系なので、私の両親が看護大学を受験することをすごく喜んでくれたのがうれしかったです。モデルの仕事も応援してくれてはいたのですが、ここにきてようやく親孝行といいますか、両親の声援は頑張るモチベーションになりました。私自身もひとりの母親として、しっかり学んでおいた方がいいのではとも思っていました。
── 無事、看護大学に合格し、入学されました。その後、第二子の妊娠がわかったそうですね。
徳澤さん:離婚してシングルの状態で大学に通い、大学4年生のときに今の夫と再婚しました。ほかの大学で学士をとって、リスキリングで学んでいる方も多かったので、自分が現役ではなくても大学に通うことへの不自然さは感じず、居心地よく学ぶことができたと思います。看護師の国家試験は2月にあるのですが、そのときお腹には長男がいて、つわりで気分があまりよくないときに試験を受けました。その後、助産学を学ぶために大学院に進学したのですが、周りが看護師の資格を持っている人や助産師の卵なので、妊婦である私のことをすごく大事にしてくれました。
── 大学院の在学中に出産されたそうですね。
徳澤さん:出産のためにいったん休学して、産後に復学したので大学院は3年かけて修了しています。妊婦でありながら出産に関する知識を得られたこともよかったのですが、やはり医療的なリスクについてもしっかりと知識を得ていかねばなりません。正直、自分ごととして考えると怖いなという思いを抱きつつも、自分が妊婦であるということを切り離して学ばなくては、と切り替えるようにしていました。
── モデルのお仕事はしばらくお休みされていました。
徳澤さん:お話はいただいていたのですが、表紙のお仕事などを少しさせてもらった以外は、モデルの仕事は休んでいました。モデルとしての自分と、学生として、医療者として患者さんに接する自分は別人だと思っていて、使うチャンネルが違うといいますか、使いわけているところがあると感じていたんです。そのふたつを同じ時間軸で並行していくというのは難しいと思ったので、お断りさせていただいていました。