子育ては「みさえさんに救われた」
──『クレヨンしんちゃん』のキャラクターで好きな人はいますか。
小林さん:みさえ母ちゃんにはすごく助けられました。長女のときの子育ては、とにかく育児本通りに育てなきゃいけないという謎のマイルールに陥ってしまいまして…。色々な育児本を読み漁っては、その通りにいかないと不安になっていました。もちろん育児本から得た知識も役に立っていたのですが、私の性格が良くも悪くも真面目過ぎる部分がありまして。
予定日より1か月近く早く生まれ、とても体の小さかった娘に、育児本に記載された通りの月齢のミルク量を飲ませようしていた時期もありました。今思えば、体が小さいのだからミルクを飲む量も少なくてもいいはずなのに、あの頃は「このミルク量を飲まないと死んじゃう!」と躍起になってしまい。お陰で娘は哺乳瓶やおっぱいを見ると「うわぁ…」という顔をするようになってしまいました。その後も、パッションが少々強めな娘のイヤイヤ期はなかなか激しかったのですが、思わず感情のまま怒ってしまい、その度に「あんなに怒ることなかったな」と後悔して。将来、トラウマになったらどうしようとまで悶々と考え込んでしまう日々でした。
私がしんのすけを引き継ぐ前から子どもたちは『クレヨンしんちゃん』を毎週楽しみに観ていたのですが、私はその間、夕飯の支度をしながら子どもたちの笑い声を聞いていました。引き継ぐにあたって改めてちゃんと『クレヨンしんちゃん』を観てみると、めちゃくちゃおもしろくて。みさえ母ちゃんは、冷凍食品だって使うし、片付けを後回しにして疲れたらゴロゴロだってしちゃうし、しんのすけから「妖怪おばば」なんて言われた日には「なんだと〜!」と感情を大爆発。でも根底には親の愛があって、しんのすけをひとりの人間として対等にみていることが伝わってくるので、安心して笑ってその場面を見ることができるんです。そんなみさえ母ちゃんの姿を見ていたら「子育てはもっと気を楽にしていいんだ、完璧な子育てなんてなくていいんだ」と心がふっと軽くなりました。大切なことをみさえ母ちゃんに教えてもらったと思います。だいぶ助けられました。
── たしかに、いつも明るいみさえさんのキャラクターは見習うべきところがありますね。産後は育休などは取らず声優の仕事を続けていたんですか。
小林さん:仕事は産後2、3週間で復帰になりました。子どもたちは生後3か月から保育園にお世話になったのですが、私の方がずっと後ろ髪を引かれていました。なので、一緒にいられるときはなるべく子どもに全力投球するようにしています。特に季節ごとの行事やイベントや誕生日などは、私の自己満足を込めて、家でめいっぱい楽しむことにしています。
── 具体的にはどんなことをしているんでしょう。
小林さん:春はレプリカの桜の木をリビングに置いて家花見をしたり、夏は家スイカ割りや家縁日、おもちゃの虫を部屋に置いて家虫取りなどをしたり。ハロウィンは衣装を作って家宝探しゲーム。お正月には電動餅つきでこねた餅を小さめの臼と杵に入れて家餅つき。突っ張り棒にフェイクの草を絡ませて、爪楊枝に刺したイチゴをつけて家イチゴ狩りもしました。バルーン遊具を家で膨らませたときはリビングがバルーン遊具でギチギチになってしまい、リビングの家具を全て廊下に出さなくてはならず…。引っ越し並みの作業をする羽目になったこともありました。買うときに「軽自動車2台分のサイズがあれば大丈夫」という言葉に「それならいける!」と思ってしまったのですが、うちのリビングはそんなに広くありませんでした…。長女が中学生になって、最近はあまり参加してくれなくなってきているのが悲しいです。

── お家で楽しむイベントのレベルが高すぎました!
小林さん:家が物で溢れてとんでもないことになってしまったので、倉庫を借りて荷物を置いています。「いったい何しているんだろう」とときどきふと我に返る時があるのですが、準備をしている間が楽しいんです。「SNSにアップするために」とかこつけて本当は自分がしたいことを子どもと楽しんでいます。もともとインドア派で、家にいられるならずっといたいタイプなので、全部家でやりたいというのが影響していると思います。
── 家でお子さんに演じているキャラクターの声を聞かせることもあるんですか。
小林さん:絵本の読み聞かせるときはそれぞれの役を色んな声で演じて聞かせています。ときどき、突然しんのすけになったりしてふざけることもあります(笑)。すごくいいストーリーなのに結末もしんちゃん風にアレンジしたりして。絶対表には出せません。
── 楽しそうですね。ぜひ聞いてみたいです!しんちゃんは5歳ですが、男の子を演じるにあたってお子さんを参考にしているそうですね。
小林さん:言い方がよくないかもしれませんが、知らず知らずのうちに自分の子どもが研究材料と言いますか、研究の対象にあります。子どもならではの言い方や語尾、ふざけているときに言いそうなセリフや声をストックさせてもらっています。子どもに「ちょっとこのセリフ言ってみて」と頼んで、「なるほど〜」となることも多いです。
もともと、野沢雅子さんに憧れて少年の声を演じたくて声優になったのですが、少年の声を得意とする上手な声優さんが大勢いらっしゃるなかで、どうやって差別化を図るかを考えました。そんななか、初代しんのすけ役のうえちあき(矢島晶子)さんが吹き替えていた映画『ホーム・アローン』の主人公の男の子の声が、本当の子役さんがやっていると思ったくらい自然で衝撃を受けました。そこから「洋画の吹き替えでも通用する、本物の子役と間違われるくらい自然な少年の声ができるようになれば、強みになるのではないか」と思うようになりました。デビュー後から、うえちさんの吹き替えをはじめ、いろんな子役のセリフや吹き替えを聞いて勉強しています。
── 声優としてのこれからの目標はありますか。
小林さん:憧れで目標でもある、大先輩の野沢雅子さんがまだまだバリバリの現役ですので、私も生涯現役を目指したいです。そのためにも声を商品として保ち続けられるよう努力と研究をしてまいります。いくつになっても成長し続けられる機会をいただける声優の仕事を、これからも大切にしていきたいです。
PROFILE 小林由美子さん
こばやし・ゆみこ。千葉県出身。1998年声優デビュー。2018年から『クレヨンしんちゃん』2代目 野原しんのすけを担当。主な出演作に『ドラゴンボールDAIMA』界王神(ミニ)、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』長田時弥、『ニンジャラ』バーン、『逃走中グレードミッション』トムラハル、『デュエルマスターズシリーズ』切札ジョー・切札勝舞・切札勝太、『デジモンアドベンチャー』泉光子郎、『鬼灯の冷徹』シロなど。プライベートでは2児の母。
取材・文/内橋明日香 写真提供/小林由美子