子どもから人気を集めるアニメ『クレヨンしんちゃん』。時代とともに変わりゆくもの、変わらないものを2代目野原しんのすけ役声優・小林由美子さんに伺いました。(全2回中の1回)

時代をとともにお下品さは削られても

── プライベートでは中学生の長女、小学生の長男と2児の母親でもありますが、子育てが声優の仕事に活きていると思うことはありますか?

 

小林さん:朝から「早く起きろ~!」「ごはん早く食べちゃって!」「遅刻するよ!」など子どもたちのおかげで毎日いい発声練習ができています(笑)。

 

小林由美子さんとお子さん
「しんちゃんとハイポーズ!」小林由美子さんとおふたりのお子さん

子どもからは「ママうるさい、声でかい」とよく言われますが、子どもたちとの毎日の言い合いは発声練習も兼ねて、あえて腹式呼吸を意識して声出しているところはありますね。あと、声で子どもを捕まえられることも仕事が育児に役立っていることのひとつです。声が大きいので子どもが迷子になる前に呼び止められます。

 

── 普段の声とはまったく違っていて驚いたのですが、アニメ『クレヨンしんちゃん』で2代目「野原しんのすけ」として声優をつとめるにあたって、どんな努力をされましたか。

 

小林さん:先代のうえちあき(矢島晶子)さんも普段の声とはまったく違います。いつもは本当にかわいらしい、透き通った声をされているので、しんのすけの、あの独特な声や喋り方はうえちさんの物凄い努力と研究の結果なのだと思っています。監督をはじめ、スタッフの皆様からも「出来る限りしんちゃんのイメージはそのままで」というご指示もあり、まずはその先代の努力と研究を完コピするという形でなぞることにしました。とにかく一日中、うえちさんのしんちゃんを聞き続け、自分の声と比べる作業を繰り返しながら、「野原しんのすけ」をインプットしていきました。

 

── 自分の声を録音して聞くと違和感がありますよね。

 

小林さん:声優デビュー当時は、画面から聞こえてくる自分の声にかなり違和感がありました。でも少しずつ芝居や声が商品として出来てくると違和感も減っていきました。今も普段話している声を録音して聞くと若干違和感はあるのですが、キャラクターを演じている時の声は客観的に聞いているというのもあると思いますが、違和感は感じなくなりました。「野原しんのすけ」はまだまだ勉強中です。

 

── 声優さんならではのプロの仕事ですね。『クレヨンしんちゃん』といえば、時代とともにお下品さが減ってマイルドになった印象があります。

 

小林さん:以前はPTAの敵と言われていた時代もありましたが、しんちゃんの自由さが子どもたちにはウケていました。時代とともにお下品さは削っていったものの、しんちゃんらしい「おしりブリブリ」や5歳児らしからぬ言動は絶対残したいというのがスタッフさんたちにはあったようです。「しんちゃんのおしりだけは絶対守る!」と、大人たちが円陣を組んで決意を固めたことがあったという話を聞いて、なんて素敵なんだと思いました。時代とともに変わっていく部分はあるにしても、子どもたちがケラケラ笑える要素は残していきたいという思いで作られていると思います。

 

しんのすけは自分の好きなことや楽しいことには、120%のパワーで挑むのに、興味のないことには一切やる気を見せない、とにかく自由人。でも友達や家族をとても大事にしているというのが根底にあるので、たとえ主人公とは思えない言動や行動で周りを振り回しても許してもらって、力になってもらえる。そんなしんちゃんってなんだか憧れますよね。おバカと友情と家族愛のバランスがとてもいいアニメだと思います。