いじめが原因で中学卒業後は高校に進学せず、約3年間自宅で引きこもっていたと語るなだぎさん。太っていた体はみるみる痩せ、栄養失調で倒れたあとに── 。(全3回中の3回)

引きこもりの喜びは最初だけだった

なだぎ武

── 中学時代に壮絶ないじめを経験されたこともあり、中学卒業後は高校進学を考えなかったと聞いています。

 

なだぎさん:学校に対して希望がなくなったんですよね。もともと勉強は好きじゃなかったし、頑張れば入れそうな学校も紹介してもらいましたが、自分にその意志がなかったんです。親に進学しないと伝えると、自分が決めたことなら、と反対はなかったですけど、何もしないのもなんだしということで就職することになりました。

 

── 中学卒業後はメッキ工場に就職。しかし半年程度で退職することに。

 

なだぎさん:就職して3か月後にはもうムリだって思いました。中学卒業したての自分は、大人とうまくコミュニケーションをとることすらできなくて。仕事を休む頻度が次第に増えていって、半年後には退職しました。その後、母の知り合いのラーメン屋さんでアルバイトもしましたが、やっぱりしんどくなって辞めました。そこから3年くらいずっと引きこもりです。外に出たいと思わなかったし、人と関わるのはもう嫌だ。人に対して疑心暗鬼になっていて、人の笑顔が怖くなった。自分が笑われているような気持ちになってしまったんです。

 

── 引きこもった当初はどんな気持ちでしたか。

 

なだぎさん:「やった、何もしなくていい」と思ったのかな。毎日、好きな映画や漫画が観られるって思ったけど、その喜びは最初だけだったかもしれません。いつも昼過ぎくらいに起きて、両親が出て行くのを見計らって、自室からリビングに移動します。そこでちょっとくつろいでから、家族が帰ってくる時間までに自分の部屋に戻るんです。

 

食事は、母が作り置きをしてくれていて、夜は自分の部屋の廊下の前に置いてくれました。でも、食事もだんだん食べなくなるんですよ。食欲があるくらい元気なんだって家族に思われるのも嫌になってきて、自分の存在を消したくなるんですね。「アイツ冷蔵庫行ったな」とか、動きを悟られるのも嫌っていうか、そういう境地に入ってきて。母も僕がご飯を食べないので、気をつかってフルーツとかを出してくれるんですけど、それすらも食べたり、食べなかったりで。次第に水分さえ取ればいいと思うようになっていったんです。

 

リビングに行くのも気がひけてきて、自分の部屋の窓から抜け出してコンビニに行くようになりましたが、窓が小さいから窓の冊子のネジを外し、体をどうにか窓から出して。買い物をして家に着いたら、また自室の窓から入るんですけど、他人から見たら完全に泥棒ですよ(笑)。自分の部屋なのに。

 

── コンビニに行くお金はあったのでしょうか。

 

なだぎさん:もともとあんまりお金を使う子どもでもなかったので、お年玉の残りとかを使っていたんだと思います。親も体を心配して「大丈夫か?」ってときどき声をかけてくれましたが、こちらは特に聞く耳を持たなくて。次第にお腹も空かなくなって、体型はガリガリに痩せて、食べては吐いて食べては吐いてという体になっていったんです。イチゴ1個でもお腹いっぱいになってきたときに、栄養失調で倒れて病院に行きました。