生きるために結婚を選んだ女性からの相談に
── これまで忘れられない相談はありますか?
高橋さん:親からの虐待から逃れて児童養護施設で暮らしていた20代の女性から、「生きていくために結婚をしたけれど生きづらい」と相談がありました。彼女は結婚相手から暴力もふるわれていたんです。最寄りの相談窓口では、「実家に戻ればいい」と言われたけれど、自分に虐待をした家族のもとに戻れるはずがない。相談する気力をなくしていたとき、「ゆずりは」の記事を見つけて連絡してくれました。
──「ゆずりは」を見つけてくれてよかったです。
高橋さん:はい。ただ、私たちは、女性が安心して暮らせるまで手続きを一緒に進めるつもりで待っていたのですが、電話から4時間経っても来ませんでした。心配する私たちの前に、汗をかきながら自転車をこぐ女性が現われて…。じつは彼女、経済的な虐待にも遭っていて、現金を1円も持っていなかったんです。電車に乗る持ち合わせすらなかったことを話せなかったんだと知ったときは、すごく反省しました。それ以来、相談があったらまず私たちが会いに行き、相談料をはじめすべてお金の心配は必要ないと、事前に伝えるようにしています。
── その後、女性はどうなったのですか?
高橋さん:ひとり暮らしをした後、今のパートナーと出会えて、今も連絡をくれます。彼女からは、誰にも頼れずに生きてきた人ほど、本当に伝えたいことを伝えられないし、そのことが苦しみになっていると気づかされました。それ以来、私たちは、相談者の方に安心して話してもらえるための言葉かけなどをよくよく考えてきました。といっても、相談者の方とはめちゃくちゃケンカもしますけどね(笑)。
相談者に「私はサンドバッグじゃないぞ!」とマジギレも
── 相談者とケンカですか!?
高橋さん:「ずっと誰も助けてくれなかった」という長年の怒りを私たちにぶつける相談者が少なくないんです。もちろん、「私たちが悪かった」と思うときは謝りますが、何も非はないときはさすがに怒ります(笑)。だって、夜中にいきなり電話してきて、電話に出ないからといって、「それでも支援者か!ボケ!」とメールを送られて、被害を受けてきたから仕方ない、とは思えません。思いたくないです(笑)。
何を言っても許される相手だと投げつけられる言動に対しては、「私はサンドバッグじゃないぞ!」とマジギレします。「優しい気持ちなんか生まれてこねーよ!」と、ケンカをすることも多いです(笑)。
── 普段はどうメンタルを保っているのでしょう。ホッとできる時間はありますか?
高橋さん:ひと息つける時間は、私たちの仕事でも絶対に欠かせません。自分をケアする時間をつくることも意識しています。いちばんの息抜きは、お酒ですね(笑)。あとはヨガや海外ドラマを楽しむ時間も大事にしています。
PROFILE 高橋亜美さん
たかはし・あみ。「ゆずりは」所長。1973年、岐阜県出身。日本社会事業大学社会福祉学部卒業後、フリーランスでお菓子作り、バックパッカーで海外を旅するなどした後、自立援助ホームでの仕事に従事。2011年より現職。著書に『子どもの未来をあきらめない』(明石書店)などがある。
取材・文/高梨真紀 写真提供/高橋亜美