障害児を含めた子どもの特性に合わせ、成長の記録がつけられる育児ノートに反響が寄せられています。商品開発の背景には、障害児の子育てで感じた「してあげられない罪悪感」があったと言います。(全2回中の2回)
障害児のお母さんを悲しませないノートを
── 山崎さんはご自身も重度の知的・身体障害児いっくんを育てながら、勤め先の会社で2021年に障害児の親に寄り添うブランド「cocoe」を立ち上げ、「障害児や医療的ケア児のための育児ノート」を開発・販売されました。どのような思いから作られたノートなのでしょうか。
山崎さん:いっくんは妊娠7か月、700gの早産で2015年に生まれました。そのいっくんの子育て中に育児ノートや母子手帳で感じた「悲しみ」や「疎外感」が開発のきっかけです。私が使っていた育児ノートは、思い出ページに、お食い初めやお宮参り、七五三といった行事のタイトルがすでに書かれたものでした。すべて親として、楽しみでとても大切なイベントですよね。でも当時のいっくんはできるような状況ではなかった。「してあげられない罪悪感」や「できない悲しみ」がそのページを見ると襲ってきました。
また、母子手帳の成長グラフでも、700gで産まれたいっくんはどこにも記入できませんでした。「標準」を示すグレイのラインにも、何年経ってもこの子が届くことはできないんだと責められているように感じてしまって。そんな自分の経験を活かして、障害児のお母さんたちを悲しませない育児ノートを作りたいと思ったんです。
── お母さんたちを「悲しませない」工夫とはどのようなものでしょうか。
山崎さん:一般の育児ノートは1冊のノートとして製本され、取り外しのできないものが多いのですが、cocoeの育児ノートはバインダーのカスタマイズ型にしています。ライフイベント表や身長体重の記録、思い出など、子どもの特性に合わせて内容を取捨選択していただけるようにしたかったからです。中身も、たとえば成長グラフには、縦軸と横軸ともに数字を空欄にして何グラムで生まれても最初から記入できて、成長していることを感じられるようにしました。思い出ページもすべて空欄にして、世間の標準的な行事でなくても、それぞれのご家庭の思い出として残せるものを残してもらえるようにしました。
障害児とひと言で言っても、症状はさまざまです。障害の重さに関係なくできるだけたくさんの方に使ってもらえるノートにしたかったので、健常児のお母さんを含めて100人近くのお母さんたちに実際に使用してもらい、アンケートをとって開発に至りました。
「障害児の家族」に寄り添う商品が少ない
── 販売開始後の反響はいかがでしたか。
山崎さん:たくさんのメディアに取り上げていただいたおかげで、全国から大きな反響をいただきました。「こんな育児ノートがほしかった」という肯定的なご意見ばかりでホッとしました。発売から3年になる今も毎日のように、メールなどで感謝のお言葉をいただいているんですよ。
── 同じ「悲しみ」を感じていたお母さんたちがたくさんいたんですね。
山崎さん:昔の、育児ノートを前に苦しんでいた自分にも届けられた気がしてうれしかったです。あるお母さんからは「cocoeの育児ノートが、子どもの障害を受け入れるきっかけになった」という声をいただきました。それまでは苦しかった病院での面会が、わが子が頑張って成長していることを実感したことで、もっと会いたい、成長を見たいと思えるようになったそうです。その子自身の成長に気づけることは、親にとっても、前を向く力を与えてくれるのだと実感しました。
服やバッグと同じように楽しく選べる福祉用品を
── cocoeでは、育児ノートのほかに、ベビーカーやバギーに取り付け、車いすとして使っていることを周囲に伝えられる車いすマークホルダーなどを開発されています。
山崎さん:いっくんが、今よりも体が小さかったころ、車いすではなくベビーカーを使っていたんです。大阪の病院でのリハビリに通うために混んだ電車に乗っていたら、隣に立っていた人から「ベビーカーたためよ」とボソッと言われてしまって…。「歩くことができないいっくんは車いす代わりにベビーカーを使っているのに」という悲しい気持ちと、「でも事情を知らなければ邪魔に感じられても仕方ない…」という経験から生まれた商品です。
── かわいいデザインと色のバリエーションが印象的です。
山崎さん:福祉用品は、おしゃれなものやバリエーション豊富なものが、正直少ないんです。家族に向けたものは、特に少ないと感じています。今は、おしゃれなお母さんも多いですし、ここでもがっかりしてほしくなくて。洋服やバッグのように、福祉用品にも「選ぶ楽しさを」を広めたいと思っています。