オリンピック銀メダリストの平野美宇選手は三姉妹の長女。個性豊かな3人の娘を育てる平野真理子さんは、子どもの個性にそった形で向き合い、未来に伴走してきました。目標が見えない次女、発達障害の三女に対して、真理子さんがとった行動とは?(全4回中の3回)
三姉妹で夢中になった卓球とその先
── パリオリンピックで卓球女子団体銀メダルを獲得した平野美宇選手は三姉妹と伺いました。ふたりの妹さんも卓球に取り組んでいるのでしょうか?
真理子さん:次女の世和(せわ)、三女の亜子(あこ)、いずれも幼少期から「私も卓球をやりたい」と言って私が主宰する卓球教室に入っていました。世和は山梨県チャンピオンで小学校のときの最高戦績は全日本卓球選手権・バンビの部ベスト8、高校のときはインターハイ、全日本卓球選手権女子ジュニアの部にも出場しました。
三女の亜子も幼いころから全国大会に出場し、小学6年生で日本代表として国際大会にも出場しました。高校のときは全日本卓球選手権・女子ジュニアの部でベスト16。今年、国スポ(国民スポーツ大会)にも山梨代表選手として活躍しました。
亜子はコミュニケーションが苦手なタイプで、3歳のころ広汎性発達障害という診断を受けました。性格はひとつのことに没頭するタイプ。必要だと思ったらとことん取り組みます。美宇にそっくりですね。現在は大学生として英語を学んでいますが、通学に往復4時間かけています。それでも卓球が大好きで、21時ごろ帰宅してから毎日2時間は練習を欠かしません。必要だと思ったら、ひとりで日付を超えるまで練習することもあります。
── 亜子さんは小さいころから努力家だったのでしょうか?
真理子さん:はい。お絵描きでもなんでも、とことんやり抜く子でした。私も子どもたちには「目標としているものを得るためには、それ相応の努力が必要だ」と教えてきました。「この大会で優勝したいなら、この練習をするといいね。この学校に進学したいならこのくらい点数が必要だね。そのためにはどうしたらいいかな」と、何が必要なのか一緒に考えます。ただ、それ以上は口うるさくは言いませんでした。やるかやらないかを決めるのは本人で、好き、または、必要と思えばみずから動くでしょう。まわりから言われてしかたなく取り組んでも、人生の貴重な時間のムダ遣いであり、もったいないと私は思います。
とはいえ、亜子は特性から苦手なことが少なくありませんでした。たとえば、学校から帰ってきたら靴をそろえる、食事のあと口のまわりをきれいにふくといった習慣がなかなか身につきませんでした。何度言っても忘れてしまうんです。あんまり注意や指示ばかり言うと親子関係にもヒビが入る気がしたので、「頑張り表」を作りました。「靴をそろえる」「靴下を洗濯かごに入れる」と、取り組むべきことを全部細かく書き出して、それができたら丸をつけるという表を作りました。すると、亜子は丸がほしくて積極的に取り組むし、注意や指示よりほめる機会が多くなり、親子で笑顔になる時間をたくさん持てるようになりました。
目標が見つからなかった次女にかけた言葉
── オリンピック女子団体銀メダリストの長女の美宇さん、大学に通いながら卓球にも打ち込む亜子さんと、お子さんたちは夢中になれるものがあるのですね。
真理子さん:早い段階から夢中になれる卓球を見つけた美宇と亜子に対し、次女の世和はやりたいことがなかなか見つけられませんでした。卓球は好きで成果もあげていたものの、とことん勝利を極めたいという選手向きな性格ではなく、幼いころから球出しを進んで行うような子。私がいないときは代わりに練習を仕切ってくれたり、亜子の進路の相談相手になってくれたり、頼もしい私の右腕でした。そんな世和から「どうしてみんな、夢や目標が見つかるの?自分が何になりたいのかわからない」と相談されたことがあります。実際は早くから目標を見つけられるほうが珍しいと思うのですが、姉妹を見て、自分だけ取り残されたような気がしたのかもしれません。
だから「世和みたいな子は多いと思うよ。将来、どんな目標ができてもスムーズに進められるよう、準備だけはしておこう」と話しました。すると、世和は気になる職業があれば、どうしたらその仕事に就けるか調べ、どんな学校に進学したらいいか、そのためにいまできることは何か、どんどん自分で考え、前に進んでいきました。
うちの三姉妹は料理が好きなので、一緒によく作ったりもしました。目の前で魚をさばいたり、みそを仕込んだりすることも。子どもは好奇心旺盛だから「何やっているの?私もやりたい!」と興味を持つんです。最初は手つきがぎこちなくても、上達していきます。世和と亜子は、小学3年生ころにはひと通りの料理ができるようになりました。高校時代は毎朝、お弁当を自分で作って登校しました。こうした経験がいつの間にか夢につながったようで、現在、世和は大学で管理栄養士の資格を取得することを目標に勉学に励んでいます。