障害は特別じゃない「向き合ってサポートするだけ」
── 子ども一人ひとりと向き合い、寄り添う姿が印象的です。
真理子さん:私自身が楽しくないとやる気が出ないんです。だから、子どもたちと接するときも「ゲーム感覚」で取り組めるように心がけてきました。何事もいくつか選択肢を提示して、子どもたちに選ばせました。
たとえば、おこづかいの金額を決めるのも「3つの決め方があるけど、どれがいい?ひとつ目の方法は定額制で1か月500円。ふたつ目は卓球の試合結果で金額を決める。みっつ目は学校のテストの点数。1点1円にして99点だったらおこづかいは99円。もし100点だったらボーナスで1000円!」という具合です。美宇は卓球の試合結果、世和と亜子はテストの点数を選びました。テストを選んだふたりはボーナスが欲しいから、テストのときは事前の勉強も欠かさなかったし「テスト中、何度も見直したよ」と言っていました。美宇は卓球そのものも大好きでしたが、おこづかいアップをめざしてさらに頑張っていました。個性が出ておもしろいですよね。
── 何事も一緒に楽しみ、盛り上がっていたのですね。
真理子さん:子どもは皆、好きなことや得意なことがあります。それぞれに合ったやる気を出す方法を見つければ、ちゃんと自分の道を選び、歩んでいけるんです。それはどんな子でも同じだと思います。三女の亜子に発達障害があると言うと、何か特別な知識や技術が必要な支援が求められると思われがち。でも、決してそんなことはありません。その子がどんな性格なのかをよく見て、成長を見守ることが大事。しっかり自分の道を歩んでいきます。
もし苦手なことがあれば、サポートすればいいだけです。親だってわからないことはあります。私も困ったら専門家の医師や小児リハの先生に相談して力を借りました。つまり、障害があってもなくても「個をよく見ることが大切」で、同じなんです。
私が主宰する卓球教室には、車いすの人もいれば発達障害のある人もいます。それは特別なことではなく、当たり前のことだと思います。一人ひとりに向き合ってみれば、たまたま障害があるという程度の話。ただ残念ながら、こうした環境はまだ一般的ではないように感じます。年齢も性別も国籍も障害も関係なく、いろいろな人たちがごくふつうに、一緒に過ごせるようになればいいなと思っています。
PROFILE 平野真理子さん
ひらの・まりこ。平野卓球センター監督。静岡県出身。山梨県在住。特別支援学校、小中学校等に約10 年間勤務。現在は山梨県で平野卓球センターを夫婦で経営。障がいのある人と社会との架け橋になりたいという思いから、インタビューや講演会などにも活動の場を広げている。東京・パリ五輪卓球女子団体銀メダリストの長女美宇、現在学業専念中の次女世和、発達障害があるが勉強と卓球の両立で活躍中の三女亜子の三姉妹の母でもある。自著「美宇は、みう。夢を育て自立を促す子育て日記」を上梓。
取材・文/齋田多恵 写真提供/平野真理子