「シェアハウスで自炊」息子たちの生活ぶり

── 生活や練習にはスペイン語が必要だと思いますが、何か準備などはされたのですか。

 

大久保さん:うちの子たちは英語もそんなに得意ではなくて、言葉に関しては「海外ならどこでも一緒」と思っていますね。なによりサッカーが楽しめることに重きを置いていました。わが家の性格だと思うのですが、準備に関しても何も心配せず、パスポートさえあればという感覚でした。スーツケースは用意したのですが荷造りも前日に「これとこれを入れて…」という感じです。親である私たちも細かく聞いて確認することもないので、スペインに行ってから子どもが「やっぱりあれを持ってくればよかった」なんてことをよく言っています。でもこれもいい経験で、自分自身で必要なものがわかっていいのかなと思っています。子どもたちは、渡航前はただ楽しみな気持ちでいっぱいでした。

 

── 旦那さんから子どもたちに何かアドバイスなどはありましたか?

 

大久保さん:私が知らないところでサッカーのアドバイスをすることはあったんでしょうけど、特に何かに気をつけなよという話もなく、渡航前は「頑張ってこいよ」とだけ声をかけていました。

 

── お子さんたちとは連絡を取り合っていますか。

 

大久保さん:時差があるのですぐに伝えたいことがあっても「もう寝てる時間だ」とか「まだ起きてないな」ということはあるものの、お互いに毎日ビデオ通話をしていて、元気な顔を見られています。日本にいたときよりも連絡を取っていますね。どうしても近くにいてガミガミ言ってしまうと、息子も話したいことを話せないでしょうし、私もすべてが見えていたら心配したりイライラしたりすることも多いと思います。今は笑顔で今日の出来事や楽しかったことを報告してくれるのはいいですね。先日も3男が「シェアハウスの花瓶を割ってしまったけど、ちゃんと謝ったよ」と連絡が来ました。こまかく報連相ができているなと思います。

 

大久保莉瑛さんと長男
長男の高校の卒業式で。仲のよさが伝わる母と息子の2ショット

── シェアハウスに住んでいるとのことですが、食事はどうされているんですか。

 

大久保さん:キッチンは共同で、きょうだいの食事は長男が作っています。ビデオ通話の途中でふたりが「今日は何食べる?」というやりとりをしたり、料理をしているところも映してくれたり。「おいしそうだね」なんてやり取りもしていますよ。

 

── 日本にいるときから料理をするお子さんだったんですか。

 

大久保さん:いえ、まったくでした。ただ、長男は食べることが好きなのできっと何かしらは作るんだろうなと思っていました。料理を日常的にするようになってだんだん楽しくなってきたようです。手に入りやすいパスタやパエリア用のお米を買って料理しているのですが、わりとちゃんとしたものを食べているなと思います。私としても自炊は二の次と言いますか、近くにお店もあるので出来合いのものでもいいと思っていたんです。でも、きちんと買い出しにも行って、栄養のあるものを食べているようなので安心しています。それに、長男は食事以外に、3男の勉強も見てくれています。長男が語学学校に行く前に勉強の課題を与えて、長男が帰ってきたら確認テストをしているみたいです。

 

── 頼りになりますね!ホームシックはなさそうですか。

 

大久保さん:今はサッカー留学のような感じで向こうに行っているので、兄弟ふたりで楽しく過ごしているようです。ただ最近、こちらでいとこの結婚式あったので、家族や親戚みんなで参加して集まっているのはうらやましいと思ったようです。あとは通話中に私たちがお寿司を食べているようなときは、向こうではなかなか食べられないので「いいなぁ」と言われますね。

 

── 母親として心配なことはありますか。

 

大久保さん:長男と次男は反抗期が結構ひどかったのですが、3男はそれがちょうど始まるかなというくらいの時期にスペインに行ったので、発散できていないのではと心配です。長男は反抗期後にすごく丸くなったので、3男がもし吐き出せないままだったらどうなのかなと。反抗期もない子もいますし、子どもによっても違うので一概には言えないと思うんですが…。

 

── 長男の反抗期はどんな感じでしたか。

 

大久保さん:長男は、口を聞かなくなることはなかったのですが、発する言葉すべてにとげがあって、夫に対しても、ものすごい口の聞き方をしていた時がありました。それで一回、夫と長男が取っ組み合いになって。当時現役だった夫の方がもちろん力が強く、長男も「これはどうもできない」と感じ取ったようで、それ以降は落ち着きました。もともと感謝の言葉をよく口にする子だったのですが、反抗期が終わったあとは元に戻ったように優しくなったので、本質的なものは変わらなかったと安心しました。そのあとで背が伸びたり声が変わったりしたので、あの時期は自分ではどうしようもない、ホルモンに支配されていたんだなと感じますね。

 

── 大久保家は反抗期も真正面から向き合うスタイルですね。

 

大久保さん:そうですね。子どもがツンツンしていたら「なんでそんなにツンツンしてんのよ」と言って、わりと親の方から仕掛けにいっている感じもありますが(笑)、常に家族のことを思って気にかけているというのが伝わったらいいですね。

 

PROFILE 大久保莉瑛さん

おおくぼ・りえ。1983年長崎県生まれ。短大を卒業後、航空会社勤務を経て、夫で元プロサッカー選手の大久保嘉人さんのスペイン移籍を機に結婚、退職。現在19歳、14歳、12歳、7歳の4人の息子を育てながらサッカースクール「Btrece(ベトレーセ)」の運営を行う。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/大久保莉瑛