子どもなのに「入れ歯」…でもメリットは大きい
── そうなんですね。小学生で、1本だけ歯がない場合でも入れ歯を?
菊入先生:はい、部分入れ歯を装着します。入れ歯のいちばんのメリットは「周囲の歯を削らない」ことです。
ブリッジ治療は抜けた歯の両隣の歯を削って人工歯の土台にしますが、小児歯科医師としては、健康な歯を削るのは歯の寿命を縮めることになるので、お子さんには特に勧めたくないです。それに、ブリッジやインプラントは一生使えるものではありません。長く持っても20年くらいで交換することになるでしょうし、ブリッジの交換時にはまた歯を削ります。
── 入れ歯にはそういったメリットがあるのですね。
菊入先生:あと、これは個人的な考えですが、できればお子さんご自身が治療内容に納得できる年齢になるまでは、健康な歯を削らないほうがいいと思うんですよ。
ある程度、分別がついた年齢ならば「歯が抜けた部分をブリッジやインプラントで補う」と言われたら、内容を理解して治療方法を選べると思うんです。でも、たとえば7~8歳の子がブリッジ治療をして、20代になったときに「親や医者が勝手に治療方針を決めて、自分の歯をいじられた。あのときブリッジをしなければよかった」と思う可能性もあるわけですよね。
── たしかにそうですね。
菊入先生:歯は一度削ってしまうと絶対に元に戻せないので、治療を追加する場合はさらに削ることになります。ですから、治療方法を自己判断できる年齢になるまでは、周囲の歯はできるだけ残す治療法を選んであげるのが、正しい提案だと思っています。そうすると、お子さんの歯が抜けた場合の選択肢は、やはり入れ歯になるんですよ。
── では、低年齢の暫定的な治療としては、入れ歯がベスト?
菊入先生:入れ歯以外の治療はダメ、というわけではありません。抜けた歯の場所によって、治療内容の選択肢は変わります。部分入れ歯は歯を削らないというメリットがありますが、隣の歯に金属をひっかけるので、前の歯に入れると金属が目立つこともあります。特にお子さんは、友達に入れ歯を見られたくないこともあるでしょう。その場合はブリッジ、または周囲の歯を寄せてすき間をふさぐ矯正治療なども選択肢に入ると思います。
永久歯が生えるかどうかの判断は
── もし「うちの子には永久歯が生えるのかな…」と心配になったら、親としてはどうしたらいいでしょう。家で確認できる方法などはありますか?
菊入先生:永久歯が生えるかどうかは、レントゲンを撮らないとわかりません。歯科医師でも、視診や触診でわかるものではありません。
── 歯科医院に行く必要があるのですね。歯科のレントゲンには部分写真と全体写真があると思いますが、どちらがいいのでしょう?
菊入先生:口全体が映る、パノラマレントゲンのほうがいいですね。小さなフィルムを口のなかに入れて撮影するレントゲンもありますが、これはピンポイントで撮影するので、歯全体の様子がわからないんです。
── レントゲンを撮るのは、何歳ぐらいからがいいでしょうか?
菊入先生:パノラマで撮影する場合は、レントゲンの機械が顔の周りをぐるっと回るんです。撮影は30秒以内ですが、撮影中はじっと動かないでいてほしいので、そういう約束ができる年齢、だいたい4~5歳以上がいいのではないかと思います。もっと低年齢の2~3歳くらいでもレントゲンは撮れますが、それで先天性欠如がわかったとしても、年齢的に矯正治療はまだできないんです。ですから「小学校に上がる前に、歯の総合チェックを」という意味で、小児歯科に行くのがいいですね。
PROFILE 菊入 崇先生
きくいり・たかし。日本大学歯学部小児歯科学講座教授、日本大学歯学部付属歯科病院小児歯科診療科長。北海道大学歯学部を卒業後、同大学院歯学研究科助手、南カルフォルニア大学歯学部研究員、北海道大学大学院歯学研究科助教などを経て現職。博士(歯学)。日本歯科専門医機構認定小児歯科専門医、日本小児歯科学会認定指導医、日本障害者歯科学会認定医。
取材・文/前島環夏 画像/PIXTA