もともと永久歯がなく、乳歯が生え変わらない先天性欠如の子は、10人に1人いるという調査結果があります。しかも、永久歯がなくて生え変わらなかった乳歯も、将来的には抜け落ちてしまうことが多いそう。子どものうちに乳歯が抜けてしまったら、どうすればよいのでしょうか。日本大学歯学部教授で小児歯科医師の菊入崇先生に、治療法を伺いました。(全2回中の2回)
永久歯が生えない子は「今ある乳歯をできるだけ長く使う」
── 永久歯が生えない先天性欠如の子どもは、将来的にさまざまな歯のトラブルを抱えるリスクが高いのですね。自分の子どもが先天性欠如だとわかったら、どうしたらよいのでしょうか。
菊入先生:まずは「今ある乳歯を大切にする」ことがとても大切です。残念ながら、乳歯はいずれ抜け落ちる可能性が非常に高いです。とはいえ、自分の歯に勝るものはありません。できるだけケアをして、乳歯を虫歯にさせずに長く使うのが基本の考え方です。
── 健康な歯でいられるように頑張ろう、ということですね。どうせ抜けるなら、早めに抜いてしまってもいいのでは…?という気もするのですが。
菊入先生:私はその考え方には反対です。現在、インプラントやブリッジなどの治療方法は飛躍的に進化していますが、天然の歯と同じ機能や感覚を完全に再現することはできません。
自分の歯には神経や血管が通っていて、歯の根は歯根膜(しこんまく)というクッションのようなもので包まれています。これらがあることで噛む感覚や力が養われますし、あごの骨をはじめ、全身の健康を保つ役割を果たしているんです。
ですから、まずは虫歯にしないように、おうちで乳歯のケアを毎日していただく。そのうえで、将来的にどのような治療計画を立てるかという話になります。
乳歯が抜けたらすぐに矯正歯科で相談を
── それは、いわゆる矯正治療ですね。
菊入先生:はい。これからするお話は、乳歯が抜けたあとの治療です。基本的には、歯が1本でも抜けたら、早めに矯正治療をしたほうがいい場合があります。
── 幼稚園くらいの年齢でも、矯正を始めたほうがいいですか?
菊入先生:7~9歳ぐらいの低学年のうちに、矯正歯科の専門医に相談したほうがいいと思います。永久歯の欠如が何本、どの位置にあるのかによって、治療内容や金額も変わってきますので。
── 矯正治療は自費というイメージがありますが…?
菊入先生:先天性欠如の場合、親知らずを除いて6本以上の永久歯が欠如している場合は、保険適用になります。ですから、まず「欠如が何本か」を確認する必要があります。
── 5本以下だと、自費での矯正治療になってしまうんですね。
菊入先生:はい。自費というと損するように感じる方もいるようですが、5本以下の欠如は遺伝的な可能性が低いから保険適用外なんです。つまり、お子さんが成長して赤ちゃんができたときに、その子に欠如が遺伝する可能性は低いといえます。ですから、欠如が5本以下なら保険は適用されませんが、将来的な遺伝の心配は考えにくいので、ある意味よいことではないかと思います。
治療は「ほかの歯とあごの発育状況」を見て
── なるほど。では、矯正治療の内容について教えてください。
菊入先生:先天性欠如で乳歯が抜けた場合は、そのすき間をどうするか考えなければいけません。どの治療法を選ぶかは、お子さんの年齢によって変わります。具体的には「あごの骨の発達が完了しているか」と「ほかの歯の永久歯への生え変わりが終わっているか」を見ます。この2つが終わっていれば、インプラントやブリッジ治療の選択が考えられます。
── その子の骨の成長と、歯の状況次第ということですね。インプラントやブリッジをする目安は何歳くらいですか?
菊入先生:個人差はありますが、だいたい高校生から20歳以上がいいと思います。永久歯への生え変わりが終わるのは13~14歳ぐらいですが、骨の成長がゆっくりめのお子さんだと15歳くらいまでかかるので、中学校卒業まではやらなくてよいのではないでしょうか。
── では、乳歯が残っている子どもの場合は、大人になるまでは暫定的な対応になるんですね。
菊入先生:はい。ほかの治療法としては、入れ歯になります。