「歯抜け」を放っておくとどんなトラブルに?

── 先天性欠如で乳歯が抜けてしまうと、歯にすき間があいた状態になりますよね。そうすると、何が問題なのでしょう。

 

菊入先生:いちばん大きな問題は、噛み合わせがずれてしまうことです。1本でも歯が抜けたままにしていると、周囲の歯が少しずつ傾き、やがて歯全体の位置が動きだし、上下の噛み合わせがおかしくなります。そうなると、食べ物をしっかり噛みにくいし、歯ぎしりや食いしばりの原因にもなります。ほかにも、さまざまなトラブルを引き起こす可能性があります。

 

── どんなことでしょう?

 

菊入先生:たとえば、次のようなことです。

1.歯の間に食べ物のカスが詰まりやすくなり、虫歯の原因に
2.周囲の歯が揺れ動きやすくなり、将来的に歯が抜ける原因に
3.歯周ポケット(歯の根元と歯茎のすき間)が大きくなり、将来的な歯周病の原因に
4.あごに負担がかかり、将来的に顎関節症(がくかんせつしょう)の原因に
5.(特に前歯が抜けた場合)歯並びの悪さが目立つ

── けっこう、たくさんありますね。

 

菊入先生:「歯の1本くらい、なくても大丈夫」と思うかもしれませんが、その数ミリのすき間が大問題です。特に1、3、4などは、歯が抜けてすぐに起こるトラブルではありませんが、大人になってからの歯の健康に大きな影響を及ぼします。

 

たとえば「2. 歯の揺れ動き」は、長期間かけて進行するものです。最初は小さな揺れでも、放置していると歯を支える力が弱まり、最終的には健康な歯なのに抜け落ちるリスクが高まります。

 

「3. 歯周病」も同様です。歯が揺れ動くと歯周ポケットが広がり、そこに細菌などがたまりやすくなります。歯周病の初期は自覚症状がほぼなく、進行も遅いため、気づいたときには治療が難しくなり、歯を失うケースもあります。

 

「4. 顎関節症」は噛み合わせのずれによって、あごの関節に強い負担がかかり、痛みや不快感がでるものです。20~30代に多く見られますが、10代の患者さんもわりといらっしゃいます。顎関節症を放置すると、あごの不調だけでなく全身症状に進行するケースも。

 

どの病気も、永久歯がある人でも発症リスクがあります。もともと永久歯が生えないお子さんは、乳歯が抜けてしまうと将来的な発症リスクが高まることは間違いありません。早めに歯科医院に相談して、適切な治療を検討する必要があるでしょう。

 

菊入崇先生
(写真提供/日本大学歯学部付属歯科病院公式サイト)

PROFILE 菊入 崇先生

きくいり・たかし。日本大学歯学部小児歯科学講座教授、日本大学歯学部付属歯科病院小児歯科診療科長。北海道大学歯学部を卒業後、同大学院歯学研究科助手、南カルフォルニア大学歯学部研究員、北海道大学大学院歯学研究科助教などを経て現職。博士(歯学)。日本歯科専門医機構認定小児歯科専門医、日本小児歯科学会認定指導医、日本障害者歯科学会認定医。

 

取材・文/前島環夏 画像/PIXTA