「周りの目ばかり気にして娘の気持ちに気づけず」

── お子さんのSOSに気づくきっかけとなったのは、どんな出来事だったのですか?

 

西方さん:年長のとき、娘に「一緒に帰ろうよ」と言ってくれるお友だちがいて。その子が娘を好きでいてくれていることを知っていたので、「一緒に帰ろうって言ってくれてるよ」と伝えると、娘は「うーん、どうしようかな」と答えて、その場から動かなくなったんです。お友だちとお母さんも待ってくれていたので、「一緒の方向だからいいじゃん!」と声をかけると、「うーん、やっぱりひとりで帰ろうかな」と言い出して。私は思わず手を引いて半ば強制的に歩かせたのですが、お友だちより先に歩いたり話に返事をしなかったりで。結局、感じが悪いまま、私はお友だちとお母さんに「ごめんね」と謝ってバイバイをしました。

 

別れてから「ねえ、どうしてあんな態度なの?お友だちが嫌な気持ちになるでしょ?『一緒に帰ろう』って言ってくれたんだから、楽しく帰ればよかったじゃない?」と叱ったら、娘が「じゃあ私の気持ちはどうなるの?」って言ったんです。その言葉にハッとさせられて。私はずっと周りの目ばかりを気にして、この件だけではなく、今までのこと全部、この子の気持ちを無視していたんだと気づいたんです。

 

そんな気づきから、教育セミナーを受けたり実践したり、それでも小言を言ってしまったりしながら、私自身が変わらなければ娘も変われないということを自覚するようになりましたね。

 

── その後、西方さんとお子さんにはどのような変化がありましたか?

 

西方さん:娘はときどき、友だちに対して自己中心的だったり、キツい言い方をしてしまうことがあるんです。今までは、そういう言動を見るたびに「お友だちの気持ちを考えなさい」と注意していたのですが、私が言ってもいまいちわからないんですよね。いつか本人が、友だちから直接注意されて傷つかないとわからないんだと思います。もちろん、現場に居合わせた場合はお友だちに「ごめんね」と謝るなどのフォローはしますが、危ないことや明らかに道理に合わないこと以外は、娘が友だちに嫌われないようにと先回りして注意するのはやめました。苦い経験をしたほうが気づけることがあると思ったんです。

 

私たち夫婦は、間違ったことをしたら子どもたちにきちんと謝るようにしているのですが、子育てについて反省する日々のなかで「あなたのためと思って小言ばかり言ってきたけど、これからはある程度は個性だと思うようにするね」と伝えたことがあるんです。すると、以前は私の顔色を伺うようなこともあった娘が、それ以降は何かしでかしたときに自分から先んじて「個性、個性!」と言ってくるようになって(笑)。衝突が減り、笑うことが増えて、娘は特に個性がより強くなりましたね。

 

PROFILE 西方 凌さん

1980年8月生まれ。人気バラエティ番組『恋のから騒ぎ』第9期生として約1年間出演し、「左官屋」の愛称で人気に。翌年から芸能活動を開始し、2009年4月公開の映画『ニセ札』で俳優デビューを果たした。監督を務めた木村祐一さんと2012年5月に結婚し、現在は2児の母。

 

取材・文/長田莉沙 写真提供/西方凌