初めての声優の仕事が一大ブームを巻き起こした『冬ソナ』のチェ・ジウ役だった田中美里さん。俳優とは勝手が違う現場で得た学び、コンプレックスからの解放、新しい世界が広がった瞬間を聞きました。(全4回中の1回)
『冬のソナタ』吹き替えのヒロイン役に抜擢されて
── 韓国ドラマ『冬のソナタ』(2003年4月NHK BSで放映スタート)でチェ・ジウ演じるヒロインの吹き替えを担当し、大きな注目を集めました。女優と声優の仕事で違いを感じる部分はありましたか?
田中さん:アテレコはあれが初めての経験で、最初に私から「声優のみなさんと一緒に録らせてください」とお願いしました。というのも、俳優が声の仕事をするときって、声優さんたちと別に録ることもあるらしいんですよね。でも、私はせっかくの機会なので、声優さんと同じ現場でお仕事ができたらと思って。
声優さんのお仕事はやっぱり全然違いました。まず『冬ソナ』が収録されたカセットテープと台本をいただいたものの、私はそれで何をすればいいのかわからない。声優さんたちに「話し出す秒数を台本に書いて映像と口を合わせる練習をするんだよ」と教えていただいて、「そうなんだ」と思ったり。あと「舞台でセリフをしゃべるときくらい声を張ったほうがいいよ」「ご飯を食べるシーンのときは口に指を一本横にあてて声を出すんだよ」と、みなさん惜しみなく技術を教えてくださって、本当に貴重な機会になりました。
── 吹き替えではやはりチェ・ジウをイメージされたのでしょうか?
田中さん:そこはすごく悩んだところでした。ただ、プロデューサーさんに「声を真似たほうがいいですか?」とお聞きしたら、「田中さんのままの声でやってください、そのままで大丈夫です」と言われて。韓国ドラマは自分の感情をストレートに表現するシーンが多いので、日本語でそのまま演じてしまうと少しきつく見えてしまうことがあるんですね。
『冬ソナ』って呼ばれてるらしい!
──『冬のソナタ』は当時、社会現象になりました。反響をどう受け止めていましたか?
田中さん:あれは本当にびっくりしました。当時はまだ『韓流』の作品がそこまで出回ってないころです。ご一緒した声優さんもみなさん驚いていて、「なんかブームになってるよ!『冬ソナ』って呼ばれてるらしいよ!」なんて話していました(笑)。
私も街中で声をかけられることが多くなりました。ペ・ヨンジュンさんが演じていたミニョンさんが人気で、「あのマフラーってどうやって巻くの?」と聞かれたり、パク・ヨンハさんが演じるサンヒョクさんとミニョンさんの間でヒロインが揺れると、「サンヒョクさんとミニョンさん、どっち派!?」なんて聞かれたり。私はもちろん声だけですけど、実際にドラマに出ているかのようにみなさん接してくださるんです。それだけ没頭して真剣に見られていたということですよね。
── チェ・ジウさんご本人にもお会いになったそうですね。
田中さん:チェ・ジウさんって少し声が低めなんですけど、お会いしたとき、私を真似して高い声を出してくださって(笑)。「吹き替えをしてくれてうれしいです」と言っていただいて、なんだかすごくほっとしました。