師匠から学んだ「東京で成功するための作戦」

── 体に身についた「前に出てナンボ」という笑いのスタイルを変えるのは、大変だったのでは?

 

森脇さん:じつは番組が始まる前に、弟子入りした若井はやと師匠から、「いいか?半年間ひたすら三宅さんにトスだけ上げていけ。お前は絶対にボールを打つなよ」と釘を刺されていました。「それを続けていれば、そのうち三宅さんからお前にトスを上げてくれる。そこでバーンと思いきり打つねん!」と。「へえ、東京はそういうものなんだな」とアドバイス通りにしていたら、まさに師匠の言う通りに。そこから、『笑っていいとも!』『夢がMORI MORI』など、仕事がどんどん決まりだしたんです。

 

森脇健児さん
つらい時期も支えてくれた師匠の故・若井はやとさんと

後に三宅さんに「じつはあのとき…」と当時のことを話したら、「そんなことがあったんだね。最初は関西からくる芸人さんだから、きっとガンガン前に出てくるんだろうなと思っていたんだよ。いやあ、すごい師匠だね…」と言ってくださいました。これはすごく大きな学びでしたね。いまでも関西の芸人から「東京でどうやっていけばいいか」と相談されたときには、この作戦を伝えるんです。「やたらと前にシャシャリ出ず、トスを上げるのに徹したらいい。そのうち、絶対に振ってきてくれるから」と。

 

── トスを上げるには、相手はもちろん、周りのことも冷静に観察していないといけないですよね。来るべきトスに備えて力を蓄えておく必要もあります。

 

森脇さん:そうなんです。相手のことをよく見て、その言葉を拾って拾ってつなげていく。それを続けていると、「自分の笑いをきちんと受け取ってくれる」と相手から信頼が得られ、トスを上げてもらえるようになる。「自分が、自分が」では、決してうまくいかないんですね。東京での仕事をしていくにあたって、最初にそれを知ることができたのは、後の仕事にとても役に立ちました。師匠のすごさにもあらためて気づかされましたね。

 

PROFILE 森脇健児さん

もりわき・けんじ。1967年、大阪府生まれ。京都・洛南高校時代には陸上でインターハイ出場。高校在学中に芸能界入り。1990年代には『笑っていいとも!』『夢がMORI MORI』などの人気番組に多数出演。TBS『オールスター感謝祭』の人気企画「赤坂5丁目ミニマラソン」には2003年から連続出場。YouTube『やる気!元気!森脇チャンネル』更新中。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/森脇健児