不登校の原因は本人だけでなく環境にあることも
── 玉城さんは「家族相談士」の資格を取得されたそうですが、これはどのような資格なのですか?
玉城さん:国家資格として公認心理師というものがありますが、家族相談士は民間の資格になります。公認心理師が学ぶ項目のひとつに家族心理学があって、家族相談士の資格はそれに特化して勉強し、活動するための資格です。たとえば公認心理師、臨床心理士、精神保健福祉士など、医療の治療に当たる方々の補佐につく形で、患者さん本人と1対1で話すだけでなく、家族全体カウンセリングを行ったりします。
たとえば不登校になった子どもがいたら、当事者だけに原因があるという見方をしないで、ご家族全体にカウンセリングを行い、家庭の中で悪循環がないかを探ります。困りごとを聞いて見つけていき、家族が元々持つ力を活かせるよう支援します。
今、群馬県の病院で相談スペース「こもれびカフェ」という活動をしています。病院に不登校のお子さんが来られたときに、医療的な治療が必要ない場合もあるんですね。病名がつかなかったり、お薬がいらない場合、精神科病院だと、医療行為としてお話を聞いてあげられないんです。そういう病名のつかない方たちを対象にしています。
完全に無料で1時間程度、家族にもお話を伺います。子どもが不登校でお母さんも「自分のしつけがダメなのかも」と疲弊している、本人は「お母さんが心配しているのに学校に行けない自分はダメだ」と思ってしまう。それぞれのお話を聞くと、全員が頑張っているのに悪循環が起こっていることが多いんです。なので、何から始めていけばいいのかなどを、そのご家族と一緒に考えています。私が答えを持っているわけではありません。自分が持っている力をそれぞれに発揮してもらえるような気づきを一緒に考えるような業務です。
── 取得しようと思われた具体的なきっかけはあったのですか?
玉城さん:LINE相談ですね。不登校で悩む子とその原因を探るべくお話ししていても「学校はべつに楽しい」と言う。理由がわからないまま半年くらいが経ったころ、その子がなにげなく「今日も家に誰もいなくて一人でお弁当を食べてるんだけど、寂しいからLINE繋ぎながらご飯食べていい?」と言い出して。話を聞いていくうちに「これはこの子だけの問題ではなく、どうやら親御さんと話さないといけないな」と思う場面が出てきたんです。とはいえ、スクールカウンセラーでもなんでもない私が「あなたの親と話したい」と言える立場ではないので、資格をとって親子でお話を聞けるようにしました。
「孤食で辛い」と悩んでいる子どもたちは、貧困家庭で親が夜勤でいないとか介護でいないとかいう場合もあれば、めちゃくちゃキャリアウーマンやお医者さんとかのお子さんとか、経済的な困難が関係ない場合もあるんです。事情がさまざまなので、本人だけでなく親御さんと話すことが解決するきっかけにもなります。
── 玉城さんがたくさんの子どもたちと話して思うことはありますか?
玉城さん:「相談力」です。子どもだけでなく大人にも言えることですけど、これからの社会に「セルフメンタルケア」として必要なものだと思っています。これからも「命の参観日」の講演やLINE相談を通して、一人でも多くの子どもたちに出会い、相談力の大切さを伝えていけたらと思っています。
PROFILE 玉城ちはるさん
たまき・ちはる。1980年4月19日生まれ。広島県出身。シンガーソングライター・家族相談士。24歳からアジア地域の留学生支援活動「ホストマザー」を10年間継続。36名の留学生を送り出し、その「ホストマザー」の経験を生かし現在アーティスト活動の傍ら全国の小中学校・高校・大学を廻り「命の参観日」という講演を行っている。広島安田女子大学にて非常勤講師も務めている。
取材・文/加藤文惠 写真提供/玉城ちはる