自分の価値観が正しいかどうかを疑うこと
── 文化の違いを知らないと、誤解を招く恐れがありますね。
玉城さん:そうなんです。中国人の男の子との印象的なエピソードがあります。毎日ご飯を作っても彼が少しだけ食べ残すんですよ。口に合わないのかと試行錯誤して、わざわざ中華街まで食材を買いに走ったこともあります。一生懸命作っても、彼はどうしても残すわけです。私たち日本人は幼いころから「ご飯は感謝して食べなさい、残すのは失礼」と言われてきましたよね。作り手のことを考えて食べろという教育を受けて、その価値観で育つので、どうしてもそれが受け入れられなくて。
もったいないから彼の食べ残しを食べたら「なんで食べ残しを食べるんだ!汚い!」と彼が怒ったんです。そう言われてさらにショックを受けて泣きながら「なんてことを言うの」と怒鳴ったんですよ。そしたら中国には200以上の民族があり文化もさまざまで、全部食べきってしまうと「あなたのおもてなしが不十分で、用意した料理の量が少ない」ということになるから、感謝を伝える意味で食べ残しているんだとわかったんです。
一方的に責めたけど違ったなと。そのとき自分が受けた教育や価値観が「絶対に正しい!」と、私は泣きながら人を責める人間なんだな、と知りました。これはちゃんと話し合わないといけないと思いましたし、自分の価値観が正しいかどうかを疑うことを学びました。自分が絶対に正しいということは100%ではないんじゃないか、相手には相手の正義があるんだということに気づきましたね。
── たしかに、文化の違いを知るのは大事ですね。
玉城さん:留学生だけでなく日本人とも共同生活していましたが、そういう部分では日本人同士のほうが大変でした。「同じ日本人だからわかるでしょ?」となるからです。留学生とは見た目も言葉も宗教も歴史も違うから素直に「教えてほしい」と言うことができます。でも、日本人は「当然、言わなくてもわかるだろう」って思ってしまう。そんな気持ちでやっていたらケンカになるんです。「なんで普通がわからないの?」「大人だからわかるよね」って。日本人同士でも常識や考え方は違いますから、同じ日本人同士だからこそもめるんです。
当時は「なんで私はわかってあげられないんだろう」と悩むこともありましたが、ここで初めて「実は私たちは『違う』のに『同じだ』と思っていることに生きづらさを抱えているんだ」と知りました。日本人同士でも、たとえ親子であっても価値観が違うんだって。
私は結婚し、今は小学校3年の息子と3歳の娘の母です。長男が3歳のときにADHDグレーゾーンと言われたのですが、この当時の経験があるから息子と話し合いができるように思います。自分の子どもだからわかるだろうと思うけど、思ってもみないことをするんですよ。このことで発達障害を持っているお子さんをお持ちの親御さんは悩むけれど、私たちとは見え方が違うんですよね。そもそも子どもが違う視点で見ていることがけっこうあって。わかっているつもりにならず、どんなに小さい子でも「なんでこう思うの?」とちゃんと話し合うのはとても大事だなと思います。
── 送り出した留学生たちも成長し、お子さんが生まれた方も。ホストマザー・玉城さんの「孫」がすでに6人もいるそうですね。現在も交流はありますか?
玉城さん:はい。日本人はいまだに会いに来てくれますし、海外の子も連絡を取ったりしています。7年以上、共同生活した香港の男の子は「僕に妹と弟をありがとう」とたずねて来るたびに子どもたちをかわいがってくれます。親になったり、各国での活躍を聞くと本当にうれしいですね。みんな優秀で、今はマレーシアにいたりシンガポールと香港を行き来していたり、ドバイにいたりと活躍しています。日本で何か災害が起こると、恩返しだと募金してくれたりもするんですよ。
── それはうれしいですね。留学生のみなさんが日本滞在時に玉城さんのやさしさに触れ、日本に恩返しの気持ちを持ってくれる子に育ち巣立ったかと思うと、同じ日本人の一人としても玉城さんに敬服します。
玉城さん:そんなそんな(笑)。私も彼らからたくさんのことを学びましたし、今の仕事にも活きる気づきがたくさんありましたから本当に感謝しています。
PROFILE 玉城ちはるさん
たまき・ちはる。1980年4月19日生まれ。広島県出身。シンガーソングライター・家族相談士。24歳からアジア地域の留学生支援活動「ホストマザー」を10年間継続。36名の留学生を送り出し、その「ホストマザー」の経験を生かし現在アーティスト活動の傍ら全国の小中学校・高校・大学を廻り「命の参観日」という講演を行っている。広島安田女子大学にて非常勤講師も務めている。
取材・文/加藤文惠 写真提供/玉城ちはる