「子育ては手伝うもの」という認識
── 娘さんの仕事人生にも大きな影響があったんですね。
伊藤さん:どうにかこの状況を変えようと、大学の同級生に仕事と子育てで悩んでいることを相談したら、「シルバー人材センターの方にお願いしたらいいよ。子どもの扱いも上手だよ」とアドバイスを受けました。
それからシルバー人材センターの方に午後の4時間、家に来てもらうことにしました。買い物や掃除、洗濯、そのあとも学童保育などがない時代に子どもたちの帰宅後の見守りもしてもらっていました。今でいうシッターさんを兼ねたような感じですね。すごく子どもたちをかわいがってくださる方もいて、子どもたちがその方の家にお泊まりに行くこともありましたよ。だいぶ私にも心の余裕ができました。
── 子育ての問題を夫婦で解決する方法は取らなかったんですか。
伊藤さん:私自身、家事の分担はともかく子育ての分担について夫と基本的な話をしてこなかったんです。共働きしていてもやっぱり当時はアンコンシャスバイアスがあって、夫にはあくまで子育ては手伝ってもらうという意識でした。私がそうなので、夫も当然、自分はよく手伝っているという認識なんですよね。
夫婦が50:50であるというところから話し合ってスタートしていないので、夫もできる範囲でしか子育てはしません。最初にちゃんと話し合うことが大事ですね。でも、今考えても、夫もあの時代に男性が、「子どもが熱を出したので帰ります」と職場で頭を下げて帰るというのはできなかったと言っていました。孫ができてからは「子どもたちが小さいときに、もっと関わってきたらよかった。もったいないことをしたな」と言っています。
── 父親が子育てをする光景は、当たり前と言ってもいい時代になりました。
伊藤さん:お父さん方には、子どものケアはチャンスですよと言いたいです。人のお世話を通して自分のケアも身につきます。たとえば70歳を過ぎてから身の回りのことをしようと思っても難しいです。子育ては自分の生活の自立にとっても最大のチャンスで、子どもも懐いてくれますし、かわいがればかわいがるほど、かわいくなります。それに「お父さんありがとう」と言って、一生大事にしてくれますよ。父親が関わることによって、子どもの自己肯定感が高くなり、学習能力が増すという論文もあります。いずれにしても、父親が育児をするのを社会全体が応援してほしいですね。今からでも遅くないので、ぜひケアをする父親に変わってみていただきたいですね。
PROFILE 伊藤瑞子さん
いとう・みずこ。1945年4月生まれ。福岡県福岡市のあおばクリニック前院長。長崎大学医学部卒業後、長崎大学病理学第2教室入局、長男と長女を出産。国立長崎中央病院臨床研修医(現 国立病院機構長崎医療センター)として勤務中に次女のMISIAを出産。小児科医師となる。その後、長崎県離島医療圏組合厳原病院小児科医長(現 長崎県対馬病院)を経て福岡県の病院に勤務し、開業。71歳で福岡女子大学大学院 人文社会科学研究科に入学、修士課程修了。福岡県こども審議会の専門委員に任命されたほか、講演会などで登壇も行う。
取材・文・撮影/内橋明日香 写真提供/伊藤瑞子