「働くことは自分に向いている」大学の退学を決意して
── 実際に1年間働いてみて、手応えはいかがでしたか?
西さん:雇っていただいたからには、会社の売上げに貢献したいし、自分がどこまでやれるかも試したくて、精一杯働きました。担当していたのは、Web制作とデザイン。もともと自分がやりたかったのは建築デザインでしたが、新しい「なにか」を生み出して世の中に送り出すという点では、インターネットの世界も建築も同じ。「やっぱり私はモノづくりが好きなんだな」と実感しました。自分の頑張りが成果として数字やお金に反映され、目標を達成したときには大きな充実感が得られる。お客様からの感謝の言葉がやりがいにつながり、「働くことは自分の性にあっているんだな」と心から感じることができたので、大学4年生を目前に退学を決めました。
そのころになると、当初は借金を抱えて沈み込んでいた両親も、「こうなったら頑張ってやっていくしかない」とポジティブになり、家庭の雰囲気もいい方向に向かうように。家族が一丸となって頑張ったことで、借金は数年で完済することができました。
── 休学期間の経験から、仕事の楽しさに目覚めたのですね。大学生活に未練はなかったですか?
西さん:みんながSNSで楽しそうに卒業旅行の相談をして盛り上がっているのを見て、「うらやましいな…」と寂しさを感じたことはありましたが、復学したいとは思いませんでした。
休学中に感じたのは、私は「大学卒業」という肩書きにとらわれていたのだなということでした。それまで、社会で生きていくためには、大学卒業の肩書きが必須だと考えていたんです。ですが、実際に働いてみると、仕事で実力をつけて成果を出すことができれば、肩書がなくても社会で戦っていけると実感しました。1年間休学して、社会人として「お試し期間」を設けたからこそ、わかったことでしたね。あのとき、背中を押してくださった教授には、本当に感謝しています。
PROFILE 西 真央さん
にし・まお。1992年兵庫県出身。国立京都工芸繊維大学に在学中、親が4,000万円の借金を抱え、大学中退を余儀なくされる。その後入社したIT企業でwebデザインおよびweb制作の業務を担当。2018年に退社し、web制作の経験を活かして友人3人と現在の株式会社アンドエーアイを起業。業界初の”iPhoneとAndroidアプリの同時開発専門"のアプリ開発会社として注目されている。
取材・文/西尾英子 写真提供/西 真央