思いやりが溢れる社会に

── 意識を変えるようにしているとのことですが、お子さんたちの未来がどんな社会だったらいいなと思いますか。

 

貞鏡さん:綺麗ごとかもしれないのですが、人を思いやる気持ちや余裕がもっと溢れたらいいなと思います。私自身の経験で言いますと、産休に入るのも復帰するのも一筋縄ではいかず、復帰したとしても保育園から連日のように「お熱がでました。お迎えにきてください」との連絡があり、体と心が思うようにいうことをきいてくれない葛藤がありました。

 

そんななかで、「またお子さん熱でたの?」「お母さん、あなたがもっと頑張らないとね」と、ふと何げなく言われた周りの方の言葉に傷ついて、余裕がまったくなくなり、涙が止まらなかったことがありました。私もほかの人に、無意識にそのようなことを言ってしまわないよう、してしまわないよう気をつけようと強く思いました。

 

表面上はわからなくても、さまざまな状況の人間がこの世で共存しています。その状況、その立場になったことがないから分からない、知らない、では何も生まれず、息苦しい世の中のままです。「正直分からないけど、分からないなりに分かる努力をする」。自分中心ではなく、相手の状況を想像できる余裕を持ってみたら、自分の気持ちにも余裕がうまれ、より生きやすい世の中になるのではないかと思っています。

 

PROFILE 一龍斎貞鏡さん

いちりゅうさい・ていきょう。実父に講談師八代目一龍斎貞山、祖父に七代目一龍斎貞山、義祖父に六代目神田伯龍を持ち、世襲制ではない講談界に於いて初の三代続いての講談師。連続物などの古典演目の他、ピアノを弾きながら講談を読むピアノ講談、子ども向けの紙芝居講談など新たな挑戦も行う。現在、4児の母として芸道と子育ての両立に適進中。
 

取材・文/内橋明日香 撮影(サムネイル)/ヤナガワゴーッ! 写真提供/一龍斎貞鏡