海外では産後のつらさをガマンしなくていい
── オーストラリアでの出産を経験して、感じたことはありますか?
宮村さん:日本人は痛みに強いというか、すごくガマン強いんだなと思いました。オーストラリアの人は陣痛がきたときや分娩の最中に、ちょっとでも痛みがあるとすぐに訴えるらしいです。鎮痛薬入りの笑気ガスを吸って痛みをやわらげていました。「日本人は限界までガマンしがちだから、痛かったら早めに伝えたほうがいい」と事前に聞いていたから、私も少しでも痛かったらすぐに言おうと思っていました。
でも、いざ出産となったとき「陣痛の波がきているな、でも1人目のときはもっと痛かったから、まだ痛いって伝えるのは早いかも」なんて考えていたら、あっという間に子宮口が開いて、すぐに出産となりました。2人目だったから、赤ちゃんがおりてくるのがすごく早かったみたいです。結局、私も痛みをガマンしたまま出産に至りました。
── 産後、日本とオーストラリアの違いを感じることはありましたか?
宮村さん:オーストラリアは産後ケアがすごく手厚かったです。出産後、赤ちゃんとママの様子を見るために、保健師さんが家に来てくれるんです。そのときに「お母さんの様子はどうですか?つらくないですか?」と聞かれました。赤ちゃんは可愛いけれど、家にこもって育児をしていると、気がふさぎがちで…。それでも、産後に落ちこむのはよくあることだし、頑張らないといけないと思っていたんです。ただ、保健師さんには「つらいときはあります」と伝えました。すると、すぐにカウンセリングの予約を入れられて「この日に行ってください」と。カウンセリングなんておおげさだと驚き、「私には必要ないです」と言うと、「そんなことを言っている場合ではありません!」という感じで、対応がすごく早かったです。
最近は日本も産後ケアに力を入れ始めているようですが、私がオーストラリアで出産したのは10年以上前のことです。何事もガマンしない、つらかったらすぐに周囲に伝えるのが当たり前で、周囲も産後ママがつらくないようケアしてくれる環境だったと思います。街の人たちも子連れにすごく優しくて、大きなベビーカーを持ってバスに乗ろうとすると、すぐに周囲が手伝ってくれました。赤ちゃんが泣いても誰も気にしませんでした。すごくおおらかで過ごしやすかったです。
いっぽうで、衛生面では日本のほうが安心できると思いました。日本はどこも清潔だし、ママたちもお手拭きを常備していて、すぐに赤ちゃんの手や口を拭いています。オーストラリアでは大人も裸足で歩いたり、子どもがショッピングセンターの遊具をなめても気にしないみたいなところがあり、大丈夫かな?と心配になりました。日本とオーストラリアの文化に触れ、両方のいいところを取り入れたら最強だなと思いました。
「大忙しだけど気楽」シングルマザーの実感
── 離婚後、2018年に日本へ帰国。現在はシングルマザーとして2人のお子さんを育てているそうですね。
宮村さん:シングルマザーになって一番大変なのは、仕事も育児も全部ひとりでこなさないといけないことです。物理的に手がたりません。何かあったとき相談できるパートナーがいないので不安になるときもあります。とはいえ、すべて自分で決めて、思った通りに動けるから、身軽だし気楽です。子どもたちはいずれ私の手を離れていくから、ちゃんと自立してひとりで生きていけるようになってほしいですね。
海外に移住して出産・離婚を経験し、シングルマザーとして子どもを育てていくうちに、精神的に強くなったと思います。私はパートナーを甘やかしすぎるところがあるようで、あんまり結婚には向いていないかも。その代わり、周囲の女友だちには恵まれています。みんな自立してしっかりした人が多いんです。「老後はみんな一緒に、最期まで楽しく過ごしたいね、健康で頑張ろう」と話しています。そういうことを話せる女友だちがいるのはすごく心強いし、老後が楽しみでもあります。
PROFILE 宮村優子さん
みやむら・ゆうこ。声優。兵庫県神戸市出身。1994年、『勇者警察ジェイデッカー』のレジーナ・アルジーン役で声優デビューを果たし、1995年に放送が始まった『新世紀エヴァンゲリオン』の惣流・アスカ・ラングレー役で大ブレイクする。『名探偵コナン』の遠山和葉役も担当。2009年からオーストラリアに移住。2016年に帰国後、声優として第一線で活躍しながら、講師として後進の育成にも務める。2児の母。
取材・文/齋田多恵 写真提供/宮村優子