2017年に第1回目が開催され、花火大会の常識を覆したと言われる「STAR ISLAND」。伝統的な花火と最先端技術に音楽、ショーパフォーマンスを融合させたこのイベントの総合演出を手がけているのは、かつて俳優として活躍し朝ドラなどにも出演経験がある小橋賢児さんです。小橋さんは「伝統は守り続けるだけでは継承できない」と考えています。

 

小橋賢児さん
現在はクリエイティブディレクターとして活躍する小橋賢児さん

「他のイベントで花火師さんと仕事をしているときに、花火大会の今後について聞いたら、みなさん開口一番に『これからは有料の花火しか生き残れないと思う』と答えました。『理解が得られる限定されたエリアでのみ打ち上げて、自分たちも収益を得ていくのがこれからの花火の形ではないか』という話でした。

 

この話を聞いて僕もその通りだと思ったんです。でもその一方で、これまで無料で観られていたものが有料になったら、お客さんはどんな反応をするのだろうか…。そこから誰もが納得できるものを作るにはどうしたらいいのか、考え始めました。それに、花火に限らないのですが、伝統を守ろうとさまざまなところで言われているものの、伝統って守るだけでいいのだろうかと思っていた時期でもありました。

 

過去の歴史を振り返ってみても、伝統と言われるものは、その時代の人がものすごい創造とイノベーションをしてきたからこそ、みんなが後世に残していきたいと思って繋いできたわけですよね。この時代の人が当時と同じような熱量で才能や技術を繋いでいくことが、本質的には伝統を守ることになるのではと考えました。花火界にもイノベーションを起こさなくてはいけないタイミングに来ていると感じたんです」

 

STAR ISLAND 2024
今年6月に東京・お台場で開催された「STAR ISLAND 2024」

全席有料の「STAR ISLAND」のチケット価格は、1席9350円から7万円を超すもの(2~4名)もあるなか、今年6月に東京・お台場で開催されたチケットは当日券も含め完売になりました。今でこそ信頼関係を築けているそうですが、開催前は花火師から「本当に大丈夫なのか」と疑いの目を向けられていたと小橋さんは振り返ります。

 

「最近は変わってきていますが、従来の花火大会は、演出に合わせて花火をあげるのではなく、それぞれ決められた時間のなかで花火師さん自身がショーを作っていて、技術の競い合いの場でもあります。職人ですから、花火をどう見せていくかはやはり自分たちが一番よく知っているという思いが強いです。自分の提案に対しても「お前にできるのか」という雰囲気を感じていました。

 

それに、僕が音楽に花火を合わせたいタイミングと、これまで花火師さんが打ち上げていたポイントとは違うことも多くて。「この音に合わせて打ち上げたい」「いや、今まではこうやってきた」と意見がぶつかることもありましたが、一緒に食事をしたり飲んだりして、自分が信じるものについて説得や話し合いを重ねていきました。

 

少しずつ信頼関係を築きながら第1回目の『STAR ISLAND』が開催されたあと、『従来の花火大会では誰も経験したことない世界を見せてもらった』と言っていただけました。実際に見ていただくと納得していただけることが多いですね。今では花火師さんの方から、参加したいと言ってくれるイベントになりました」

 

シンガポール、サウジアラビアと、海外での公演も成功させた小橋さんは、海外に比べて日本で新しいことに挑戦するハードルの高さを痛感していると言います。

 

「条例や法律の壁です。日本は縦割り行政と言われますが、前例がないことに対して『これはどこに確認が必要で、誰の許可があればいいの?』ということが多すぎて、なかなか前に進めません。音量や光の使い方もそうですし、ドローンの運営についてもそうです。今年、東京・お台場で初めてドローンを使ったんですが、関係各所との調整を重ねて、それこそ10年越しのチャレンジでようやく実現できました。

 

STAR ISLAND 2024
伝統的な花火とドローン、水上と陸上でのライブパフォーマンスが光や音楽と融合する

世界で当たり前のようにできていることが日本ではできないですし、スピードも遅い。日本でドローンの飛行許可が制限されているなか、中国は自社で製造したドローンで世界にビジネスを広げていきました。そういった技術面で伸びにくい背景やクリエイターがチャレンジしにくい環境があると思います。

 

アメリカだったら、エンターテイメントは大きい市場なので、予算のつけ方がまったく違います。韓国が世界に発信するコンテンツを作ろうとして韓流が世界に広がったように、日本もようやく開いてきた感じはありますけど、これまで海外向けにしなくても国内の需要で成り立ってきたという土壌が背景にあると思います。

 

日本の職人技術は本当にすばらしいので、これがきちんと評価されていくべきです。今の日本は世界に比べてすべての価格が安すぎます。職人の努力に価値をつけていき、その対価が受け取れる仕組み作りが伝統の継承には必要だと考えています」

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/丸玉屋小勝煙火店、小橋賢児