夏の風物詩として楽しみにしている方も多い花火大会。今、さまざま理由から各地で中止が相次いでいます。花火大会の現状を取材すると、伝統を守りながら継続する難しさが浮き彫りになりました。その現状を知り、伝統と最先端技術を組み合わせて花火界にイノベーションを起こそうと行動したのが元俳優の小橋賢児さんです。

 

誰もが無料で観覧できる花火に付加価値をつけ、全席有料にすることで収益化を図る──。「職人の努力が評価されるべきだ」と話す、小橋さんの思いを聞きました。

「物価高にスポンサー離れ、人手不足」花火界の課題

東京都府中市で1864年創業の老舗花火店・丸玉屋小勝煙火店では毎年、全国有数の花火大会向けの花火の製造と打ち上げを行っています。5代目の小勝康平さんは、各地で花火大会が相次いで中止になる理由についてこう話します。

 

花火師の作業風景
花火の玉に詰める火薬を釜で作る作業風景。色が違う火薬をかけていく

「資金が集まらないために花火が中止になったという話はよく聞きます。主催者が、企業や個人、自治体などから資金を集めるのですが、昔と違ってスポンサーもどんどん減っています。過去に人が密集したことによる事故が起きていますし、SNSで拡散されて広範囲から人がやってくるため警備にも多額のお金がかかります。花火の薬品は輸入品が多いのですが、物価高の影響で原材料をはじめ、運搬費や人件費などもすべてが値上がりしているなか、主催者側から『予算がこれだけなのですが、お願いできますか』と打診されることもあります」

 

花火大会が中止になる理由は、資金繰りだけではないといいます。花火の燃えかすによる被害などが報告され、中止になったケースもあるそうです。

 

「もちろん安全が第一なので危険な場合は中止が必要です。最近は天気が安定しないので天候が理由で中止になる場合も多いです。花火には雨よりも風が大敵で、風速10メートルを超える場合は、お客さんの方に花火が流れてしまい危険なので打ち上げができません。毎回、騒音や周囲の渋滞などといった苦情が寄せられますが、花火を楽しみにしている方が何万人といらっしゃって、花火大会を開催してほしいという声が我々の原動力となっています」

 

打ち上がった花火を観ることはあっても普段、目にすることが少ない花火師の仕事。花火大会に向けての準備は相当な時間がかかると言います。

 

「隅田川の花火大会など、毎年開催される大きな大会は極端な話、花火大会の翌日から来年の構想を始めます。花火の色や大きさによっても準備期間が変わってくるので一概には言えないのですが、どの大会もだいたい半年〜3か月前には準備を始め、工場で作った玉を詰めて、前日や当日に搬入します。夏のシーズン前にいっぺんに仕上がるように作業を行っていますが、工場や打ち上げの現場は、夏は暑く冬は寒いです。仕事環境としては過酷だと思います」

 

小勝さんは、花火業界には共通の課題があると話します。

 

「同業他社の方も同じような悩みを抱えているのですが、新しい人材が入ってこないので、後継者が育ちません。花火師の平均年齢はどんどん上がっていくのに、若手は少ない。体力仕事が多いので、どうしても若い力が必要です。人手不足は業界全体の大きな課題だと思います。

 

花火師の仕事風景
いよいよ玉に詰める作業。ベテランの職人の技が光る工程

日本の花火の質のよさは世界でも評判ですが、大量生産はできません。手作業が多いので、そこに人手不足が影響します。日本の花火店は20〜30人規模の会社が多いのですが、中国ですと工場に何千人と働き手がいます。先代や先々代の時代に、花火を海外に輸出していた時代は外貨獲得ができてよかったと聞いています。1ドル360円台だったころですね。世界と戦うためには、クオリティが優れていても物量で勝負できていないのが、国内の花火の現状です」

 

祖父や父の背中に憧れて花火師になった5代目の小勝さんは、花火大会が相次いで中止になるなかでも「求められる仕事をし続けたい」と考えています。

 

「創業から160年になりますが、これまでと同じことを同じようにしていても、これから先の160年は絶対できない仕事だと思っています。お客さんから求められなくなったら、花火って上がらなくなってしまうと思うんです。『もう一度観たい』と思ってもらえる仕事をするためには、日々新しいことをしていかねばならないですし、お客さんが喜んでもらえるために努力をし続けていきたいです」