現実を受け入れられない私に対して夫がとった行動

旦那さんの入院中に

── 6年半にわたり、母親を在宅介護し、看取る経験をされました。病気の家族を支える側として、お母さまと配偶者のときでは、どんな違いがあったのでしょうか?

 

新田さん:親の介護と病気の主人を支えることは、まったく違っていて、パートナーの方が気づかいの面で難しかったですね。親の場合、年齢的にも、そう遠くない将来、死が訪れることはわかっていますし、心の準備期間もあります。テレビで死にまつわる場面が出てきても、とくに気まずい雰囲気になることはありませんでした。「なんか暗いねえ、チャンネル変える?」と余計な気をつかわずに言いあえる感じでしたが夫には、さすがにそれはできませんでしたね。ドラマなどで、がん患者がつらそうにしていたり、病気で人が亡くなるシーンになると「夫はどう感じているんだろう…」と胸が痛み、顔を見ることができない。どんな言葉をかけていいかわからず、「早くCMになってくれないかな」と、時間が通り過ぎるのをじっと待っていました。

 

でも、彼は彼で、いろんなことを考えていたみたいです。あるとき、夫が書斎にこもって、なにやら一生懸命に作業をしていたことがありました。「仕事じゃないはずなのに、なんだろう」と思い、「何やってるの?」と声をかけたら、銀行の暗証番号や契約関係のパスワードなど、家の大事な情報を整理してくれていたんです。今は、ほとんどがデジタルでの管理ですよね。でも、私はそちらの方面にはめっぽう弱いので、もしも自分がいなくなったときに、残された私がひとりでは対処できないだろうと心配になったみたいです。なかなか現実を受け入れられなかった私と違い、夫は、自分がいなくなった後のことをリアルに考えていたのだと思います。

 

PROFILE 新田恵利さん

にった・えり。1968年生まれ。埼玉県出身。1985年、「おニャン子クラブ」の会員番号4番としてデビューし、人気者に。1986年、「冬のオペラグラス」でソロデビュー。著書に、『悔いなし介護』(主婦の友社)など。2023年、淑徳大学総合福祉学部の客員教授に就任。介護についての講演活動も精力的に行っている。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/新田恵利