できないことは手放す「自分のペースで仕事も育児も」
── たしかに、小さなおもちゃが床に転がっているだけでも、移動の妨げになってしまいますね。
海野さん:外出となると、さらに大変です。たとえば、保育園の見学に行くのもひと苦労で、とくに階段を上がったりするときは私ひとりでは難しいので、夫に手伝ってもらう必要があります。ですが、施設によっては、「人数制限があるので親御さんはひとりまで」と決められている場合もあって。事情を伝えても、すんなりと認めてもらえるところばかりではありません。そうしたやりとりひとつとっても、時間も手間もかかって大変だったりします。車いすでの移動は、周りの理解がすごく大切になってきますので、当事者として、きちんと発信し、伝えていかなくてはいけないなと思っています。
── 子育てをするうえで、心がけていることはありますか?
海野さん:頑張りすぎない、ムリをしないことですね。もともと何事も“人一倍努力しなくては”と、頑張りすぎてしまう性分。ですから、もしも、いまのような状況になっていなければ、“すべて自分でやらなくては”と、ひとりで抱えこみ、追い込まれていたかもしれません。人に頼るのが苦手で、努力ですべてを手に入れようと考えていた私が、障がい当事者になって“手放す”ことを学び、生きるのがラクになりました。いまは、できないことや苦手なことを他人に頼ることは、決して悪いことじゃないと思っています。
子育ても自分ができない場面ではベビーシッターサービスに頼ったり、車いすだとやりにくい掃除などは、家事代行サービスを活用したりしています。子どもとの遊びでも、ムリして子どものペースに合わせすぎなくてもいいかなと思っていて。たとえば、私はおままごとがすごく苦手なので、「ママ、一緒にやろうよ」と誘われても、「おままごと、苦手なんだよね。お絵描きならいいよ」と提案します(笑)。ムリをせず、自分のペースを大事にしながら、子どもと一緒にいられる幸せを日々かみしめています。
PROFILE 海野優子さん
うみの・ゆうこ。1984年生まれ。理系の大学を卒業後、IT企業に就職。ザッパラスで女性向けウェブメディア「ウートピ」を立ち上げた後、メルカリに転職。2018年、34歳で出産直後、末期の原発不明がんが見つかる。治療の過程で車いす生活に。2023年より、福祉実験カンパニー・ヘラルボニーで働く。
取材・文/西尾英子 画像提供/海野優子