「芸人とは」カンニング・竹山の言葉が励みに

── 2013年、乳がんの手術をしたことを発表されています。発表することに迷いはなかったのでしょうか?

 

小林アナさん:乳がん経験について公表するのはすごく迷いました。病気の話ってやっぱり深刻です。人前に立つ仕事をしているから、公表したほうがいいのかもしれない。でも、お笑い芸人なのに病気の話をしたら、周囲は腫れものに触れるようになり、2度と笑ってもらえないんじゃないか、私自身も人を笑わせることができなくなるんじゃないかと悩みました。

 

そこで、同じ事務所のカンニング・竹山さんに相談したんです。すると、「芸人とは、その生きざまを見せるものだ。俺は公表したほうがいいと思う。むしろ、積極的に発信したほうが励みになる人もいるかもしれない」とアドバイスしてくれました。竹山さんは、2006年に相方の中島さんを急性リンパ球性白血病で亡くされています。そういった経験のある方の言葉はすごく重みがありました。竹山さんの話を聞き、もし私の経験が少しでも誰かの励みになったら…と思ったんです。手術から時間が経つにつれて、気持ちが落ちついてきたこともあり、だんだん「発表しても大丈夫かもしれない」と思えるようになりました。そこで、ブログで乳がんに罹患していたこと、がんを全摘出して乳房再建手術を受けたことを公表したんです。

ブログで乳がんを公表「若い人に知ってほしいこと」

── 発表後の反応はいかがでしたか?

 

小林アナさん:たくさんの人がすごく前向きに応援してくれたんです。同じような病気を経験された方からも「勇気をもらえました」などと言ってもらえて、それが私の力になりました。これだけ人のことを励ませるのであれば、病気について積極的に発信していきたいと思いました。

 

── 今後はどんな活動をしていきたいですか?

 

小林アナさん:現在はラジオのレギュラー番組やイベントの司会などのお仕事をいただいています。安定した状態ではありますが、乳がんの経験についてもっと発信したいと考えているところです。私は乳がんの初期段階で胸の全摘出と同時に再建手術をしています。だから胸がない状態を目にしていません。おかげで、精神的なショックはそれほどありませんでした。乳がんにかかって胸を全摘出する場合、「胸がなくなってしまうのが嫌」と感じるのは当たり前だし、とても切実な問題だと思います。「病気が治るんだったら、胸がなくなってもいい」とは、なかなか割り切れないのではないでしょうか。病気の進行度によって治療方法は変わるとは思うのですが、私のような例もあるんだよと伝えていきたいです。

 

講演会の司会も務める

最近は乳がんをわずらう若い人が増えています。若くして闘病すると「好きな人ができても、乳がんの経験があると伝えたら、相手に驚かれ、引かれてしまうかもしれない。将来、結婚や恋愛ができるか不安」と考えてしまう場合もあるようです。私自身、結婚願望はあまりないのですが、いろいろな人とおつき合いしました。いつも交際前に乳がんの経験があることは伝えてきましたが、皆そのことにこだわらず、優しい人ばかりでした。現在も同棲している人がいます。患者会で知り合った先輩からは「闘病経験があることを話すことで、その男性の器の大きさがわかるわよ。もし、乳がんのことを打ち明けて引くようなら、その人はそこまでの男。先にわかってよかったんだよ」と言われて、すごく納得しました。

 

── 実際に乳がんを経験したからこその、実感がこもったお話ですね。

 

小林アナさん:病気の話ってどうしても深刻になってしまいます。命にかかわることだから当たり前かもしれません。でも、もう少し身構えずに、当たり前の話題として乳がんの話や、定期検診を受けて早期発見する大切さを話し合えるようにしていきたいです。そのために私に何ができるか模索しているところです。

 

PROFILE 小林アナさん

こばやし・あな。お笑い芸人。元新潟テレビ21アナウンサー。2011年「R-1ぐらんぷり」で準決勝進出を果たし、D1グランプリイメージガール「D-Sign」も務める。2013年7月4日、乳がんに罹患していたこと、及びがん切除と乳房再建の手術をしたことを、自らのブログで公表した。ベストボディ・ジャパン大会では、那覇大会(2021年9月12日開催)のウーマンズクラス(40歳~49歳)で準グランプリを受賞。さいたま大会(2021年10月2日開催)で第3位に入賞。ラジオパーソナリティとしても活躍。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/小林アナ