2020年からインティマシー・コーディネーターとして活動し、現在までに約50本の作品に携わってきた浅田智穂さん。ヌードなどインティマシー(親密な)シーンの撮影をサポートする役割で最近認知が広がってきたものの、まだ誤解されることが多いといいます。(全2回中の1回)

初めてオファーされたときは「なんですか、それ?」状態

インティマシーコーディネーターの浅田千穂さん
2020年からインティマシー・コーディネーターとして活動する浅田さん

── もともとは通訳として活動してお仕事をしていたそうですね。

 

浅田さん:そうですね。もともとノースカロライナ州立芸術大学大学で舞台芸術を専攻していて、舞台照明をやりたいと思っていたんです。ただ帰国後、アメリカで培ったものを活かせる仕事は通訳だと思い、20代、30代は舞台や映画など、エンターテイメント系の通訳をしていました。インティマシー・コーディネーターになったのは、2020年に当時の仲間がNetflixに勤めていて、「『彼女』という作品の撮影でインティマシー・コーディネーターが必要なんだけど、やってくれないか」と声をかけてくれたのがきっかけでした。現在では、準備段階も含めると、6〜7本の作品に関わっています。

 

── 当時からインティマシー・コーディネーターの存在はご存じだったのでしょうか。

 

浅田さん:あとから考えたら「どこかで関連する内容を読んだことはあったかも」とは思ったけれど、やはり最初はインティマシー・コーディネーターと聞いても「なんですか、それ?」という感じでした。

 

── それまで通訳としてキャリアがあるなかでのキャリアチェンジに戸惑いはなかったですか?

 

浅田さん:私のなかでは、いわゆる「キャリアチェンジ」という考え方はなくて。それまでもフリーランスだったので、会社を辞めるということもなく、自分の中では自然の流れだったんですよね。当時、出産を機に通訳の仕事を少し減らしていたんです。声をかけてもらった当時はまだ子どもが幼稚園に通っていたので、そこまで仕事を入れていなかったこともあり、1週間ほど悩んでお受けすることにしました。

 

── 米国IPA(Intimacy Professionals Association)の養成講座を受講して資格を取得したそうですね。具体的にどんなことを学んだのでしょうか?

 

浅田さん:座学では、ジェンダー、セクシャリティ、「同意」とはなにか、ハラスメント、トラウマ、メンタルヘルス、アメリカの俳優組合のルールなどを学びました。あとはより実践的な内容で、台本をどう読むか、監督や俳優とどう話すか、前張りなどのアイテムの使い方、リアルで安全なインティマシーシーンの撮影方法などですね。

 

── 米国の撮影現場と日本の現場では事情も違いそうですが、学んだことが現場ですぐ活かせたのでしょうか。

 

浅田さん:最初は私も「学んだルールに従わないといけない」と考えていたんですが、しばらく仕事をしていくうちに「そのまま日本に当てはめるのは難しいし、その必要もないかな」と思うこともあって。そこは日本式に変えないといけないなと思いながら仕事をしています。

どんな些細なシーンでも気になれば指摘する

インティマシー・コーディネーターの浅田千穂さん
最近は特に各作品に引っ張りだこの活躍ぶりです

── 流れとしては、まず台本を確認するところからスタートするそうですね。

 

浅田さん:そうですね。まずは台本を見て「これはインティマシーシーンかな?」という、レベルのあいまいなシーンも含めてピックアップしていきます。たとえばト書きに「着替えている」とあっても、カーディガンを脱いでシャツになるのか、シャツを脱いで下着になるのかは書いていないことが多いんです。なので、気になるところは全部ピックアップしていきます。

 

それをもとに監督と話をして「たしかにここは下着姿になるね」「いや、ここはジャケットを脱ぐだけだから」などと詰めていきます。それをもとに、俳優に「できる」「できない」の判断を伺います。

 

── 台本段階で俳優が「できる」という判断をしても、いざ撮影当日に「やっぱりできない」となることもあるんでしょうか?

 

浅田さん:俳優には、いつでも同意を覆す権利があります。でも、そうならないようにお話ししているので、撮影当日に俳優から「やりたくない」と言われたことは今までありません。ただ、今は配信ドラマだと撮影が数か月に及ぶこともあって。そうすると、同意を得た日から、そのシーンの撮影まで何か月も空いてしまいます。その間に考えが変わる方はもちろんいらっしゃるので、「そういうときは連絡をください」とお伝えしています。