競技に向き合う姿勢が変わった“息子のひと言”

── 息子さんはまだ幼いですが、お母さんが「アスリート」であることはもう理解しているのでしょうか?

 

立石さん:自分から思ったのか、周りに言われたのかはわかりませんが、初めてステアクライミングのことを「これかっか(お母さん)の仕事ね」って言ってくれたのは息子なんです。そう言われたときに、私の中で競技に対する姿勢がガラッと変わったんですよね。自分の中では競技を仕事だと思って取り組んでいても、周りからはまだそう捉えられないことが多い中で、息子のその言葉がすごくうれしかったんです。

 

レゴを高く積み上げて「かっかの仕事ね」と指さすこともありますね(笑)。私が練習に行こうとすると、たまに駄々をこねるのですが「お仕事で走らなきゃいけないんだよ」って言うと、「うん、行ってらっしゃい」って手を振ってくれるんです。まだ幼いので「仕事」という言葉をどこまで理解しているかはわかりませんが、彼の中で特別なものと思ってくれているのかもしれません。

 

東京タワーの階段を駆け上がる立石さん。息子さんの存在が競技の励みになっています

── 息子さんが「仕事」だと応援してくれるのはうれしいですね…!

 

立石さん:ただ最近は寂しがることも増えています。私がスーツケースを出してくると「どっか行くんだろうな」って警戒して離れなかったり、スーツケースの中に入ろうとしたり…(笑)。いずれは息子を連れて海外レースを回りたいと思っているんです。

 

日本では海外遠征に子連れで行くアスリートはまだ少ないですよね。でも、東京オリンピックのドキュメンタリーのなかで、海外のママアスリートが「子どもを連れて行かないという選択肢はなかった」と話していたのがすごく印象的だったんです。正直、経済的にもパフォーマンスの面でも簡単なことではないのですが、誰かがやらないと「当たり前」にはならないと思っていて。

 

海外の選手と話す機会も多いのですが、やっぱりみんな「子どもを連れていきたい」という思いはあるんですよね。たとえば自国開催のレースなら家族を現地に連れて行って、他の選手の子どもも一緒に見ててもらうとか、選手同士がお互いに支え合えたらいいねって。近いうちに実現できたらいいなと思っています。

 

── いつか息子さんとも一緒にレースを走れたら素敵ですね!

 

立石さん:実は数日前に初めて、私が走りに行こうとしたら「僕もお仕事しに行く!」って言い出したんです。結局、家の前を100メートルくらいだけ走ってすぐ帰りましたけれど。息子もこの競技を好きになってほしいし、少しずつ「階段は走るところだよ」と教えていきます(笑)。

 

PROFILE 立石ゆう子さん

たていし・ゆうこ。1986年生まれ。千葉県出身。学生時代は中長距離に打ち込み、26歳の時にステアクライミングをスタート。2017年に初出場した「あべのハルカススカイラン」で優勝。国内シリーズ戦の「ステアクライミング・ジャパンサーキット」で2連覇中、世界シリーズ戦の「TWAタワーランニングツアー2023」では世界ランキング3位に入った。現在は給食サービスなどを展開するONODERA GROUPに所属し、仕事と育児を両立しながら国内外を転戦している。

 

取材・文/荘司結有 写真提供/立石ゆう子