国内外で一番「走りにくい」タワーとは…?
── 立石さんは国内外の多くのレースに参加していますが、タワーやビルによってコースの特徴なども異なるのでしょうか?
立石さん:選手たちの間では、短距離、中距離、長距離の3つのタイプがあるといわれています。短距離タイプは、競技時間が2、3分と短めで、20〜30階の高さの鉄塔やビルを駆け上がるもの。国内だと東京タワーや中部電力ミライタワーが当てはまり、かなりのスピード感が求められます。
中距離タイプは30〜60階の高さの高層ビルのレースで、競技時間は4〜10分程度。国内ならあべのハルカスが代表的ですが、海外では60階前後のビルでのレースが一番多いですね。
それを超える長距離タイプは80階以上の超高層ビルで行われるもので、私が出場した中で一番長いレースは韓国のロッテタワー(123階)です。日本ではこれほど高いビルでのレースはほとんどなく、唯一当てはまるのが東京スカイツリーでしょうか。
── 建物の高さによってタイプが分けられるのですね。走るのに苦労したビルやタワーはありますか?
立石さん:国内だと名古屋の中部電力ミライタワーですね。距離自体は短いのですが、階段の形状がコロコロと変わるんですよね。これまで3回ほど走っていても、なかなか思うようにタイムが縮まらないので、やっぱり難しいなあって。
海外の高層ビルやタワーは、やはりその国の方々の体格に合わせて作られているのか、日本とは一段あたりの階段の高さが違うんですよね。階段の高さが変わると、走る姿勢やテンポも変わるので、個人的には苦手なんです(笑)。
── 階段の形状や一段あたりの高さが異なると走りにくくなるのですね。逆に、相性のよいコースもあるのでしょうか?
立石さん:東京スカイツリーはレース時間は約20分と長いのですが、一段あたりの階段の高さが低くて、ワンフロアの段数が少ないんですよ。2022年の日本選手権は下見なしのぶっつけ本番だったのですが、段差が低くて段数も少ないので、ペースを崩さずに淡々と走ることができました。個人的にはすごく好きなコースです。
世界一を目指して勝ち続ける「カッコいいお母さん」でいたい
── これまでのキャリアにおいて、一番印象に残っているレースについても教えてください。
立石さん:2022年の国内シリーズ戦の第一戦目となった中部電力ミライタワーのレースです。私にとっては産後復帰して初めての大きなレースだったので、「これからこの競技を続けていけるのか」という不安もありました。そこで勝てたのはすごくうれしかったですね。それぞれのレースにいろんな思い出があるのですが、勝って泣いたのは、後にも先にもあのレースだけだと思います。
── 今後の目標やチャレンジしたいことはありますか?
立石さん:国内シリーズ戦では一昨年、去年に続いて完全優勝での三連覇を達成したいですね。もちろん簡単に取れるものではないと重々承知の上ですが、世界一を目指してどこまでいけるかにもチャレンジしたいと思っています。息子が生まれたことで「勝ってカッコいいお母さん」でいたいとの思いも強くなりましたし、これからもメダルやトロフィーをたくさん持って帰りたいです!
PROFILE 立石ゆう子さん
たていし・ゆうこ。1986年生まれ。千葉県出身。学生時代は中長距離に打ち込み、26歳の時にステアクライミングをスタート。2017年に初出場した「あべのハルカススカイラン」で優勝。国内シリーズ戦の「ステアクライミング・ジャパンサーキット」で2連覇中、世界シリーズ戦の「TWAタワーランニングツアー2023」では世界ランキング3位に入った。現在は給食サービスなどを展開するONODERA GROUPに所属し、仕事と育児を両立しながら国内外を転戦している。
取材・文/荘司結有 写真提供/立石ゆう子