断るときも「チョイたし」の精神が大事

── 人気者の親友と自分を比べて落ち込んだり、うらやむのではなく、彼女の長所を冷静に分析して取り入れていく。その発想力や行動力に驚かされます。

 

今井さん:私はただ、自分のダメなところに気がつく力があっただけ。コミュニケーションは、人のマネから入ってもいいけれど、自分にあったやり方をしないと、うまくはならないんですね。ただ、「第2の挨拶」を獲得したことでコミュニケーションが上達し、念願だったアナウンサーにもなれたけれど、社会に出ると、今度は新たな壁にぶつかりました。

 

── 新たな壁といいますと…?

 

今井さん:「断る」ことがすごく苦手だったんです。「いまはできません」「その日はムリです」と言えばいいものを、相手を喜ばせたい、がっかりさせたくないと思うあまり、「NO」が言えずに曖昧な返事をして後悔してしまう。“このままだと社会生活が行き詰まる”と危機感を覚え、どうすればいいか考えました。その結果、“イエスかノーの二者択一で考えるからハードルが上がってしまうのでは?”と思ったんですね。

 

そこで、“この人のためにやってあげたい”と思う気持ちで心をいっぱいにして「ありがとうございます。いつまでにお返事を差し上げたらよろしいですか?」と、まずは聞くようにしました。すると、意外と相手も気を悪くすることなく、こちらの事情を考慮してくれるなど、ネガティブな反応にはならなかったんです。言葉を“ちょいたし”するだけで、NOを言っても関係が悪くならない、逆にコミュニケーションが深まることもあるんだと学びました。私のコミュニケーションは、追い詰められてたどりついたものでした。ダメだった自分に気づいた経験が、今の私の原点になっていますね。

ある医者から悩みを打ち明けられて「返した言葉」

── これまで教えた生徒さんのなかで、印象に残っている方はいますか?

 

今井さん:私のところに来る生徒さんには男性も多いのですが、なかでもよく覚えているのが、あるお医者さんです。彼は「初回の患者さんが2度目の来院をしてくれない」と悩み、私のもとを訪れました。「一生懸命、患者さんに向き合っているのにどうしてでしょう?」と不思議そうな様子でしたが、話してみて、すぐにピンときました。まず、うなずきやあいづちがない。患者さんがしゃべっている間、彼は「どう解決するか」「どんな指示をするか」をずっと考えているんですね。でも、患者さんからすれば、聞いてもらえていないと一方通行に感じてしまう。

 

ほおずき市での報道中継していた当時の様子

うなずいたり、共感のあいづちをうちながら、相手の言葉を繰り返したり、質問を投げかけたりといった手順がとても大事なのに、途中経過をすっとばして、いきなり解決策や指示という最後の段階にいくものだから、相手は取り残されて不安になってしまう。「コミュニケーションにはステップが必要ですよ」と伝え、そのプロセスを理論だてて教えたら、すぐに効果が出たようで、患者さんが再来するようになったらしいです。

 

じつはこうした失敗は、男性によくあるパターンなんです。別に悪気があるわけではなく、なんとか解決してあげたいと一生懸命なのに、手順を踏まないせいで、それが伝わらず、カラまわりしてしまうのは残念ですよね。自分のダメなところに気づけば、コミュニケーションは必ず上達します。皆さんが変わっていくのを見ると、“ああ、手助けできてよかった”と心から思いますね。

 

PROFILE 今井登茂子さん

1937年、東京生まれ。立教大学文学部卒業。1959年、TBS入社。音楽、情報、報道、スポーツなど、多岐にわたる番組を担当。 初代お天気お姉さんとして人気を集め、視聴率40%を記録。1988年、放送貢献者に贈られる「ゴールデンマイク賞」を受賞。1987年に人材教育「とも子塾」を設立。「会話力は人間力」という明快なテーマを軸に、実践的かつ科学的な理論に裏付けられたメソッドを構築。受講者はのべ3万人を超えている。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/今井登茂子