アナウンサーという職業は、番組作りにおいて周囲を気づかうコミュニケーションの達人だらけなのでしょうか。「もともとは苦手だったんです」と話すのは、元TBSアナウンサーの今井登茂子さん。人との意思疎通をいかに克服したのでしょうか。(全3回中の3回)

 

今井登茂子さんのご自宅
50年かけて育てた葉の長さが1メートル近くある雄大なネフロレピス

話し方にはテクニックより必要なことがある

── 50代でコミュニケーションを教える「とも子塾」を起ちあげられました。アナウンサーとして活躍されていたので、もともとコミュニケーションはお得意なのかと思いきや、じつは苦手でいらしたそうですね。

 

今井さん:もともと私は、コミュニケーションがすごく下手だったんですよ。それに気づいたのは、大学時代のときでした。私には、れいこさんという素敵な親友がいたのですが、彼女は男女問わず好かれていて、上級生も下級生からも大人気。グループで役員などを決めるときにも、いつも彼女が選ばれ、私は次点。一緒に行動し、同じように振る舞っているはずなのに、れいこさんばかりが褒められるのは、いったいなぜなんだろう?と不思議でした。

 

落ち込むとか羨ましいという感情よりも、純粋にその理由が知りたいと思ったんですね。そこで、彼女の一挙一動を観察してみたら、あるとき、その理由がわかりました。れいこさんの他人に対する声のかけ方、挨拶の仕方が人とは違っていたんです。

 

── どんな声がけだったのですか?

 

今井さん:彼女はいつも「おはようございます」「こんにちは」「さよなら」といった挨拶の後に、必ず相手に話を振っていました。「昨日は遅くなったけれど、終電間に合った?」「この間、体調がよくないと言っていたけれどその後、どう?」など、その人ごとに“相手を気づかうひと言”を必ず添えていたんです。“なるほど、これだったのね”とハッとしました。

 

そこで、彼女のマネをしようと試みたのですが、これがなかなかうまくいかない。要は、ふだんから人に関心を持ってきちんと見ていないといけないし、相手の立場で物事を想像しないと、その人に寄り添うような言葉は浮かばないんですね。

 

エプロン姿で商品のPRをしていたころの今井登茂子さん

── 形だけマネしてもうまくいかなかったと。

 

今井さん:「心」が伴っていないと、いいコミュニケーションにはならないんだと気づきました。そこから私も、そろりそろりとやってみました。人に関心を持ち、相手に思いをめぐらせる。最初はうまくできなかったけれど、だんだん周りの反応が好意的なものに変わってきて、会話が弾むようになっていき、合唱団のメンバーからは、プロポーズまでされちゃって(笑)。

 

── 効果バツグンですね(笑)。

 

今井さん:ガリ版で謄写してくれた楽譜を受け取るときに、それまでは「どうもありがとう」と伝えるだけだったのですが、れいこさん方式で、「ありがとう。大変だったでしょ?」と言葉を添えるようにしたら、彼の表情がみるみる変わって嬉しそうに話しだして。コミュニケーションを少し変えるだけで、人との関係や距離感がこれほど違ってくるんだなと衝撃を受けましたね。こうした経験から、「第2の挨拶」というコミュニケーションを自分の中で確立したんです。