80代からひと足先にiPhoneを使い始め

 

── 生涯アグレッシブに仕事と向き合い続けてこられました。桂さんは、「まだまだやりたいことがある」とおっしゃっていたとか。

 

山本さん:最後まで力を入れて取り組んでいた活動が、「アニバーサリーウエディング」の普及でした。たとえば、結婚40周年なら“ルビー婚”、50年目は“金婚式”、結婚60周年を“ダイヤモンド婚”と呼んだりしますが、結婚した後も、こうした記念日に改めて式典を設けたり、ドレスをきてお祝いをしましょうというものです。

 

これまでの日々に感謝をするとともに、大切なパートナーとの絆を深め合う。そんな新しい記念日を祝う習慣を日本中に普及させるのが自分の課題だとずっと言っていました。先生は、「私、まだやることがあるのよ」が口癖。未来しか見ていない人でしたね。

 

── 90代になってもなお「未来しか見ていない」とは、すごいエネルギーですね。

 

山本さん:お仕事だけでなく、自分自身に対してもそうでしたね。実は80代のとき、股関節を悪くして、手術をしたんです。普通、その年齢で足の手術をしたら、“もう歩けないんじゃないか”と弱気になったり、“車椅子でも仕方ない”と諦める人も多いと思うんです。でも、先生はリハビリを頑張って、ゆっくりと歩けるまでに回復して。

 

ただ、驚いたのは、その後でした。なんと術後、家の中に取りつけた“手すり”をすべて外してしまったんですよ。

 

── それはスゴイ…。“この先使うかもしれないから当面つけたままにしてこう”とは、考えないんですね。

 

山本さん:普通はそう考えますよね。だって、自分が若返っていくわけではないのですから。でも、先生は、術後に取り付けた家の中の手すりをすべて取っ払って、リハビリのために借りていた車いすも返却したんです。「歩けるようになったから、もういらないワ」ですって。凄い人だなあと思いましたね。

 

── 気丈な方ですね。背筋が伸びる思いがします。

 

山本さん:凛とした姿しか人には見せない方だったので、人前では杖もあまり使いませんでしたし、どうしてもやむを得なかったり、人に迷惑をかけてしまう場面以外は、車いすにも乗ろうとしませんでした。それでも番組収録やトークショーの現場内で移動時に車椅子に乗ってもらうと、周りのスタッフに「歩けるのに乗せられちゃうんです」と、私のせいにされたり(笑)。いつもシャンとしていてカッコいい人でしたね。

 

桂由美という人を、側で見てきて一番驚かされるのが、変化に対する適応能力の高さです。私がまだガラケーを使っていた時代に、ひと足先にiPhoneを使い始め、ネイルを施した長い爪で、器用にパパパパッと文字を打っていて。たしか80代の頃です。

 

また、「今、世の中でどういう事が行われ、何をしたらみんなが喜ぶか」を常に意識していて、特に20~30代の若い人たちの意見に熱心に耳を傾けていましたね。考え方もすごく柔軟。ある時、うちの息子が、「94歳の大先輩から、“今は多様化の時代だから”と言われるとは思わなかった」と驚いていました。でも、私はむしろ“先生らしいな”と感じましたね。変わることを恐れない、むしろ楽しみながら、その波に乗って生き抜いてきた人だったのだなと思います。

 

PROFILE 山本由美子さん

やまもと・ゆみこ。東京都出身。山本文郎さんと結婚後、テレビ業界にて旅番組やバラエティなど各方面で活躍。ブライダルデザイナー桂由美さんのサポートや飲食業と幅広く活動中。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/山本文郎事務所