当時はつらかった症状も「今ではあの頃に戻りたいくらい」

── それはまさにお母さんのおかげかもしれないですね。心強いパートナーもできてよかったです。

 

岩佐さん:そうですね。介護疲れでストレスを抱えて、息抜きで始めたブログがまさかこんなふうに繋がっていくとは思いもよりませんでした。振り返ると、母に暴言を吐かれたり、自宅からいなくなって徘徊していたときなどはすごくつらく感じましたね。でも、今となってはそれが懐かしいくらい。

 

母はできることが徐々に減っていきました。歩くこと、話すこと、箸を持つこと、飲みこむこと。私の名前だけは最後まで呼ぼうと頑張って「まりちゃん」「まり」「まー」となりましたが、最後は話せなくなりました。

 

食事も箸が持てなくなり、スプーンが持てなくなり、飲みこむことができなくなり、現在は直接、胃に栄養剤を流し込んで生きています。だから暴言を吐くくらいしゃべることができたり、徘徊するくらい歩けたあの頃が今は懐かしい。当時はそうは思えなかったけれど、今はあの頃に戻りたいくらいです。

 

── ご自身で介護できたのは、資格をたくさん取っていたからですね。

 

岩佐さん:将来のことを考えて、母が元気なうちに取ろうと思い勉強しました。たとえば車椅子での移動。以前はトラブルなく移動できるか不安で、車椅子に母を乗せて電車に乗るのが怖かったんです。母といっしょに暮らし始めて病気について知らないことも多く、それが本当に情けなくて…。それで資格や知識があれば安心して暮らせると思い、取ることにしました。

 

介護職員初任者研修、全身性ガイドヘルパー、認知症介助士、認知症ライフパートナー2級、あとは通信大学に4年通って社会福祉士の資格も取りました。社会福祉士は支援を必要とする人の相談にのったり、医療・福祉サービスに繫げる仕事なので、母を介護することとは直接関係はないのですが、これを取っていろいろと周りの人にアドバイスができるようになりました。

 

最近では同世代の友達でも介護について悩む人が出てきました。そういう人もたちを含め自分の経験や資格を通して得た知識を、今後はまわりの人のために役立てられたらと思います。

 

 

PROFILE 岩佐まりさん

1983年、大阪生まれ。2002年にタレントとしてデビューし、現在はフリーアナウンサー、司会者、リボーターなどとして活躍。2009年に母親が若年性アルツハイマー型認知症を発症し、シングル介護をしている。2023年に出産、1歳児の母。

 

取材・文/酒井明子 写真提供/岩佐まり